アイオワ艦内の戦い
「何?狙撃されたのか?」
「そのようです!」
「全軍に警報。敵には有力な狙撃手が含まれている可能性があり」
「了解です」
こんなことで焦ってはいけないと、ハーバー中将は深呼吸をした。確かに想定外だが、所詮、一度の戦闘で何百人も死ぬうちの一人だ。
射手など、いくらでも代わりはいる。何なら、装填まで全て自動化されているこの時代、自動小銃を扱うより簡単ですらある。
「バリケードとなり得るものを全て防衛線まで運べ。特に、上層の防衛線は一部崩しても構わない」
塹壕戦のように、隠れれば撃たれない場所があると、安心感は段違いだろう。やはり人とは理詰めで動かないか故に、戦略的な非合理を甘受せざるを得ないだろう。
「それで、銃を持っている敵は見つからないのか?」
「それが、カメラが片っ端から破壊されており、確認出来ません」
「なるほど。ならば、仕方ないか」
艦内の状況を把握する手段というのは、殆ど用意されていない。まさかこの時代に白兵戦が起こるとは、誰も予想していなかったからだ。
しかしその時また凶報が来た。
「ハーバー中将、新手の敵だ。このまま乗り込んでくると思われる。警戒してくれ」
ニミッツ大将は言う。どうも、さっき大挙して襲ってきた車両の第二波が来たらしい。まだまだ在庫はあるらしい。決して芳しくはない事態である。
「閣下、何とか止めることは出来ますでしょうか?」
「そりゃ、努力はするが、さっきの調子からすると、完全には無理そうだ」
「承知しました。ならば、艦内で食い止めましょう」
「ああ。頼んだ」
そして、米艦隊はミサイルやら砲弾やらを浴びせた。もちろん、撃破出来たものはあった。全体の25%程度だが。そして残りはまた飛んできた。
「アイオワにも来ました!」
「焦らず、慎重に、確実に、敵を倒すように」
「了解です」
例え何千という敵兵が現れようと、それが同時に戦闘に参加出来る訳ではない。こちらは常に各個撃破を出来る立場にある。どうも敵には人間の兵士も混じっているようだな、少々の警戒があれば簡単に無力化出来る。
戦闘は一秒足りとも中断されることなく続いた。また戦線は膠着し続け、ついに突破を許していない。
「思っていたより余裕か?」
ハーバー中将は呟いた。本当に、負ける気配がしないのだ。
だが、その時不意に、一ヶ所からの映像が途絶えた。
「どうした?断線でも起こしたのか?」
「分かりません。調べます」
そして調べた結果、原因は現地のカメラにあると判断される。しかし、故障なのか破壊されたは判別出来ない。
「その防衛線の、ああ、ジャクソン大尉に通信して確かめよ」
順序を誤った気がするが、現地に直接通信して尋ねるのが一番だ。
「繋がりません」
だが通信が繋がらない。これは、何かがそこで起こっている。
もちろん、カメラと通信機が同時に故障する確率が0とは言わない。だが、軍用で故障の可能性が著しく低いそれらが同時に壊れるなど、あり得るだろうか。
「どうされますか?」
「ここは、防衛線が突破されたと見なし、全ての前線を後退させる。直ちにかかれ。また、念のため、命令は艦内放送、最大音量でも流せ」
「はっ」
分からない時は最悪の想定のもとに行動する。それで大したことがなければ、笑って済ませればいいのだ。
だが、笑ってはいられないらしい。二つの部隊は無事に上がってきた。しかし、例の部隊は、上がってこない。
「やはりか。直ちに予備部隊を投入し、傷を塞げ」
仕方あるまい。部隊は全滅したと見なし、次の部隊を投入する。また同時にバリケードの設営も急ぐ。
そして十と数分、屍人が現れた。また防衛線を張った場所以外では、カメラが次々と破壊されていく。さっきの状況がまた再現されようとしているのだ。
いつ、それが起こるか分からない。正体が分からないものには、対応のしようがない。つまりは、それに怯えつつ、目の前の敵を捌くしかない。
「来たか」
そして、今度はその瞬間を捉えることが出来た。一瞬で機関銃や人が吹き飛ばされ、爆煙がカメラの視界を多い尽くす。
「対戦車ミサイルの類いか。まさかここで使うとは……」
それは思ったより単純な手段だった。しかし、そうであるが故に、対抗策もまた乏しい。物陰から一瞬だけ体を出して撃たれなどしたら、どうしようもないのだ。
「これは、どうされますか?」
「くっ、もう一度、防衛線を後退させる。但し、次の小細工を仕掛ける」
ハーバー中将は、ものの数秒のうちに対抗策に思い至った。




