カルガリー制圧
崩壊暦214年1月11日04:05
「大将閣下、米軍を逃がしてもよかったのですか?」
東條中佐は、先程、米軍を半包囲より逃がしたことについて尋ねる。
「中佐、前も同じようなことを言ったが、我々には余裕がないのだ。決して、圧倒的な優位を築いてはいなかった。我々は勝利したのだ。それ以上を求めるのは、強欲に過ぎる」
東郷大将は、東條中佐に、過ぎたるものを求めることを戒める。万が一でも艦隊に無駄な損害が出ることを避けるのが、指揮官の器である。
「申し訳ありません、閣下。私の浅慮故でありました」
「謝罪することではない。ただ、私は、中佐に猪突猛進の癖があると言いたいだけだ」
「はっ、以後、肝に免じます」
「結構」
米艦隊は、一直線に東に向かっていった。今は、連合艦隊の脅威となることはないだろう。
「第二駆逐隊は、地上へ救助に降りろ」
地上では、完全に大破した艦の生存者が屍人に襲われるだろう。
艦船の中に引きこもっていれば、まずその脅威には晒されないが、火災などで艦内に留まれない者は、土を踏まざるを得ない。
「危急の者のみを救出せよ。他は後回しだ」
「残りの艦隊は、カルガリーに進め」
連合艦隊は、カルガリーに着々と迫っていく。邪魔するものは、もはやいない。
「第三艦隊より、カルガリー対空砲の完全無力化、外縁部の着陸地確保の知らせです」
第三艦隊は、対空砲を破壊し、更には着陸するため更地を作ったようだ。これで、連合艦隊の仕事は、ほとんどなくなってしまった。
「結構。後は、地上の制圧のみか。第三艦隊には、降伏を勧告するよう伝えろ」
戦闘は避けるにこしたことはない。東郷は、ひとまず、降伏を呼び掛け、反応を見ることにした。
「降伏しますかね?」
「そう、期待しよう」
大和は、カルガリーに近づいてきた。
その時、第三艦隊からの報告が届いた。
「カルガリー側は、無条件降伏を受諾したとのことです」
「おお」
艦内は、静かな歓声に包まれる。
「結局、私は活躍できないのですね」
「そんなことはないですよ、神崎中佐。中佐は、ロッキー山脈の要塞を木っ端微塵にしたではありませんか」
「あれは、ただ爆弾を落としただけですよ。もっと、派手な活躍がしたかったのに…」
神崎中佐は、何だか悔しそうだ。
「神崎中佐、戦わずに済んだのならよいではないか。中佐の部下が無駄に死ぬのを避けられたのだ」
東郷大将は、神崎中佐を慰める。
「そう、ですね。少し、感傷的になりすぎましたね」
「わかればよい」
しばらくして、連合艦隊はカルガリー上空にたどり着いた。そして、連合艦隊は、分遣していた第三艦隊と合流する。
「少しは、見た目はましになったな」
大和以下の艦隊は、先の戦闘でボロボロになっていたが、第三艦隊を加えると、少しはその印象も薄まるだろう。
見栄というのは、重要な要素だ。
「着陸せよ」
連合艦隊は、次々とカルガリーに降り立つ。
辺りは、破壊された対空砲で囲まれている。しかし、第三艦隊はほぼ無傷。対空砲の更新はされていないようだ。
「勝ちましたね」
「そうだな」
すぐに、帝国軍は、占領行政の構築に移った。サンフランシスコのような問題は発生せず、占領は大過なく進んだ。
カルガリーは、帝国軍の新たな橋頭堡となるだろう。
しかし、これはまだ戦争の経過に過ぎない。アメリカ連邦は、依然として強大な軍事力を保持しており、降伏は程遠い。
戦争は、拡大の一途を辿るだろう。