三帝会談
サブストーリーです。
フランス第三帝国の首都は依然としてパリである。それはもちろん歴史的に言うところのパリではなく、その名を継いだだけの都市であるが、かつのパリの風格はここに移植されている。
この日、ここに集ったのは、ヨーロッパ国を構成する国家のうちの三つの帝国の三人の皇帝であった。
但し、彼らが集まった理由は皇帝だからではなく、内戦の最前線の国々だからである。まあ、ベネルクス辺りもそうなのだが、彼らに影響力はない。
集まったのは以下の面々。ドイツのヴァルヘルム5世。フランスのナポレオン10世。オーストリアのフェルディナント4世である。因みに、この中ではヴィルヘルム5世が一番強い。
「我らの地位が脅かされている」
と、ヴィルヘルム5世。
「いかにも。既にナチスは我々を必要としていない」
と、ナポレオン10世。
「我々の権力が失われるのも時間の問題でしょう」
と、フェルディナント4世。
つまるところ、彼らは自らの皇位が失われるのではないかと懸念しているのだ。かつて、自らの権益を増強する為ナチスに協力した彼らだが、今や逆にナチスに脅かされている。
ヘス総統が皇帝のように振る舞うのはいいにしても、各国の主権が害されるのは、避けねばならない。しかし不安である。つい最近誕生したばかりのライヒに、君主と中央政府の絶妙なバランスを維持出来るかは不透明だ。
「そこで、提案があるのだ」
ヴィルヘルム5世は言った。
「寧ろ、ヘス総統に公的な地位を授け、その立場を完全に固定し、我らに介入する余地を無くすのだ」
「確かに、それは名案かもしれません」
「しかし、そもそも合衆国すら半ば矛盾した体制を維持してきたのです。『皇帝』という絶対権力の名を既に我々が保持している以上、どうにも出来ますまい」
フェルディナント4世は言った。確かに、ヨーロッパの言語のどこを探しても、皇帝を上回る権威を持つ位はない。
「確かに。だがそれは、少し、視野が狭いというものだ」
「と、言いますと?」
「新たな称号でも創設しようとしているのですか?」
ナポレオン10世は、ヴィルヘルム5世の思惑に勘づいた、
「そうだ。これはあくまで一案だが、尊厳者というのはどうか?」
「なるほど。それは妙案だ。あくまで君主ではないが、実質的に君主足りうる称号です」
「千年ぶりの復活ということですか」
「もっとも、こんなものはただの雑談である。何の政治的拘束力も権威も持たない」
「ですね」
かくして彼らは、何事もなかったかのように、別々の方向に歩き出した。




