リヤドにてⅧ
サブストーリーです。
その日、連合議会の議決が出た。
「議会は、ソビエトに対し友好的な政策を取るべし、と言っておりますぞ」
イランのムハンマド伯爵は言った。
そして、このご時世で「友好的」と言えば即ち、その側に立って宣戦せよということになる。事態はサッダーム首相不利に傾いてしまった。
「サッダーム首相、如何ですかな?」
「確かに、議会がそう言うのであれば、従うべきかもしれません」
「でしょうな」
「ですが、議会は連合軍に対して統帥権を持たないというのは、ご存知でしょう?」
「そうだが?……ほう、対日戦争は否認されると」
「その通りです」
軍の統帥権を持つのは、連合構成各国の首相で構成される連合中央会議である。議会はその決定に対し拒否権を持つが、それだけだ。それ以外で議会が軍に何かを命じることは出来ない。まあ一応、予算を使って脅しは出来るが。
「このままでは、何も出来ないではないか」
イラクのレザー王は言った。
「ええ。ですから、どちらかが妥協するか、或いはこのまま中立を貫くか。選ばねばなりません」
「しかし、中立はいけませんでしょう」
サウジアラビアのファイサル侯爵は言った。
「ええ。世界に取り残されます」
戦後、世界は戦勝国によって分割されるだろう。もしくは世界が一つの帝国に支配されるか。いずれにせよ、アラブ連合がそれに参画し、勢力を拡大しなければ、戦後の列強に食い物にされるだけだ。
少なくともこの認識は全員に共有されていた。
「ならば、勝てそうな側に味方するべきでは、ありませんかな?」
ムハンマド伯爵は言った。
それは対日戦を支持する理論である。ここでアラブ連合が全力で日本を攻撃すれば、日本はたちまちに崩壊するだろう。それは分かっている。
「確かに、戦勝国には入れましょう。しかし、戦後世界で我々が獲得出来る地位は、何とも微妙なものとなりましょう。それに、我々は、列強に敵いません」
まず、現実的なところとして、アラブ連合が東京を制圧するのは無理だろう。恐らく、ソビエト共和国に先を超される。
それに、最後の最後にちょっと働いただけの国を、列国が認めるだろうか。恐らくは、ヨーロッパ、アフリカ、ロシアの三国干渉でも起こり、土地など貰えないに決まっている。上手くいってインドとインドシナを貰えるくらいだろう。
「しかし、我々が日本に味方すれば、言い方が悪いですが、多くの血を日本に捧ぐことが出来ます。さすれば、日本との友好関係も築けると同時に、ソビエトのヨーロッパ大陸領土も頂けるでしょう」
サッダーム首相はあくまで対ソ参戦を支持する。確かに戦争は辛いが、戦後の利権はこちらの方が上であろうと。そしてそれこそが正常な国家の取るべき道であろうと。
だが、結局、この日も会議は紛糾し、結論は出なかった。
しかし、サッダーム首相には、一つ心に決めたことがあった。
「言論ではどうにもならない。ここは、武力でいこうじょないか。なあ、ユースフ元帥」
「左様に御座いましょう」
彼らの企みは始まった。




