脱出
内容的には、決死作戦IVでも良かったんですけど、さすがにくどいと思いました。
崩壊暦214年1月10日03:02
時は僅かに遡る。
米艦隊は、大和に包囲を仕掛けたが失敗し、大和に脱出され、逆に日本艦隊に包囲されている。
状況は絶望的であり、アイオワも危機に瀕していた。
「大和だ!大和を沈めろ!」
チャールズ元帥は、大和へ鬼のような執着を見せる。もはや、彼は冷静さを失っている。日本艦隊に囲まれながらも、抗戦を続けようとしているのだ。
「陣形の弓を反転させろ!コロラドは、アイオワとともに…」
「閣下!!」
その時、ハーバー中将が普段の様子からは想像もつかない怒鳴り声を上げ、チャールズ元帥の肩に掴みかかった。チャールズ元帥は、思わぬ衝撃に体を震わせた。
「閣下、落ち着いて、現状を観察してください。戦力は我々が不利であるばかりか、あの化け物も無傷です。もはや、撤退しか残っていません。逃げるのです!」
「し、しかし、大和は、まだ…」
チャールズ元帥は狼狽える。
「総員に告ぐ。ただいまより、私がチャールズ元帥は職務遂行不能と見なし、私が職務を継承する」
ハーバー中将は、最終手段に訴えた。
チャールズ元帥は放心状態で、まともな指揮はとれそうもない。ハーバー中将は、半ば無理矢理に指揮権を得たのた。
「駆逐艦は、巡洋艦と戦艦を盾にしながら撤退。巡洋艦、戦艦は、陣形を狭め、守りを固めながら後退せよ!」
ハーバー中将は、指示を飛ばす。
艦隊は輪形陣を組み、カルガリーに向かって撤退していく。そして、駆逐艦隊は、全力で対艦ミサイルをぶつけ、他の艦を援護する。
「コロラド被弾!」
「くっ。陣形の内側に入れ、守れ」
現在、円形にまとまった米艦隊を、日本艦隊は弧を描いて半包囲している。
両艦隊ともに東に進んでいるため、両軍は等距離を維持したままである。
しかしそこで、最悪の知らせが入る。
「カルガリーより、日本艦隊が襲来したとの報告です」
ついに、ケラウノスによる時間稼ぎも虚しく、日本艦隊に先を越された。
カルガリーは、ハーバー中将の艦隊が救援に行く頃には、既に占領されていることだろう。都市に残した僅かな部隊では、抵抗などできまい。
もはや、カルガリーへの帰還は不可能となった。
「ハーバー中将、後は、私が指揮する」
チャールズ元帥は、落ち着いた様子で、ハーバー中将に告げる。
ハーバー中将が失意に沈むその時、ついにチャールズ元帥が正気を取り戻したのだ。チャールズ元帥は、もういつものチャールズ元帥だ。
「勿論、お任せしましょう」
「ああ」
「全艦、北に進路を取り、敵の包囲を崩せ」
米艦隊はほぼ直角に北に曲がり、日本艦隊の陣形の北端を攻撃する。突然の行動に、日本艦隊は困惑しているようだ。敵の陣形は乱れている。
米艦隊は、先端にいた巡洋艦と戦艦に砲火を集中し、足止めする。だが、日本艦隊の反対側には駆逐艦が隠れ、対艦ミサイルで援護する。
「敵巡洋艦、沈黙!」
両軍の砲火の応酬が続くが、戦局の天秤は、今、米艦隊の元にある。確実に敵の包囲は崩れつつあるのだ。
「よし、行けるぞ。そのまま前進の後はサスカトゥーンに逃げ帰る!」
チャールズ元帥は、最後の攻勢を仕掛けた。そして、それは間も無く成功する。敵の間をこじ開け、米艦隊は、包囲網を切り裂く。
米艦隊は、全力で包囲陣を攻撃し、日本艦隊の弧の外側に出た。
「よし、全艦、東に進路を変更。また、手持ちのミサイルは全て撃て!」
米艦隊から、ありったけのミサイルが放たれた。米艦隊は、最後にその置き土産を残した後、一目散に東に逃げた。
艦内は、安堵のため息に満ちる。チャールズ元帥とハーバー中将は、何とか、全滅の危機を乗り越え、撤退に成功したのだ。




