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終末後記  作者: Takahiro
2-5_バトル・オブ・ブリテン
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想定外の方面からの攻撃Ⅱ

そうして築かれた第二防衛線だが、前線からは撤退を上申する声が多数寄せられてきた。客観的に見れば負ける戦ではないにも関わらず、だ。


「閣下。向こうからの映像が中継出来ます」


「どこら辺だ?」


「中央部です」


「分かった。映せ」


どこも同じくらい激戦ではあるが、その中では若干弱いのが中央部である。それはムスペルがロンドンの外側から押し寄せたからなのだが。そう、それだけは既に判明している。


「これは……本当に出来の悪い映画を見せられているようだな」


ライエン大将は自嘲気味に言う。


立ち並ぶ大小の戦車、重厚な銃撃陣地、そして高さ数mのヒト型ロボット。実に劇的でふざけた光景だ。これが安い映画の絶望的なシーンに使われているのなら存分に評価するのだが、いかんせんこれが本物なのである。


まさか真面目に戦争をしていてこんな光景に出くわすとは、思いもしなかった。


但し、これは見た目が絶望的なだけで、実際、そう大きくは戦況に影響を及ぼしていない。あくまでも最初の一撃が最大の意味であったと言える。


「ムスペルを放っておいたのは間違いだったな、ヒムラー大佐?」


元はと言えば、ムスペルを破壊もせず輸送もせず、ただベルリンに置いてきたのはヒムラー大佐であった。


「確かに、私の考えが及びませんでした。しかし、あの状況では、ムスペルを輸送するのはもっての外、破壊すら困難でした」


「ほう、何故だ?」


「まさか全ての基地に自爆装置などついている筈がありますまい」


「別段、基地ごと破壊する必要はないではないか」


「親衛隊をごっそりロンドンに持って行ったのはどなたですかな?」


ライエン大将は言葉に詰まる。


考えてみれば、ムスペルは装甲兵器。それを完全に破壊するとなると、それなりの爆薬が必要だ。そしてそれを扱うには、それなりの軍隊が必要。しかしその軍隊はとっくのとうにベルリンを去っていた。


「私が悪いと言いたいのか?」


「誤解を恐れずに申し上げるならば、その通りです」


「ほう、言うではないか」


「しかしながら、私は決して、何もかもが閣下のせいだとは考えません。各人が最善を尽くした結果、運が悪いことにも、その行動が衝突してしまっただけなのです」


「なかなか上手く纏める奴だ」


あの状況でベルリンに艦隊を置いておくのは論外だった。それに、まさかムスペルが実戦に使われるとは、誰の思いはしなかった。この責任を負うのは誰かという問いは、愚問である。


「閣下!両翼に更なる敵援軍、ムスペルです!」


「クソ、またか」


まだまだ敵には在庫があるらしい。また都市の外壁を越えて襲い掛かってきた。


「両翼は耐えらるのか?」


「少々お待ちを」


端が破られると、そのままの勢いで全軍が瓦解する。そうなるくらいなら、全軍を更に撤退させ第三防衛線を敷くのも十分に考えられる。


「既に危機的状況にあるとのことです!」


「わかった。全軍、更に市中に後退し、新たな防衛線を築け。今の陣地は全て爆破し、指定のラインまで迅速に後退せよ。また、即応予備中隊は、全て両翼に送れ」


第二防衛線の維持は不可能だと判断した。敵には大規模なブービートラップを仕掛け、時間を稼ぎ、その間に撤退を完了させる。


またこれ以上の増援は来ないと断じ、僅かに残しておいた即応予備中隊も全て投入する。ここにあるムスペルの数が、ベルリンにあったそれに達したからだ。


皮肉にも、これまでで最大の損害を与えたのは、ここで仕掛けたトラップであった。建物ごと吹き飛ばすトラップというのも稀だが、敵がそれに怖気付いてくれて何よりである。


「しかし閣下、これ以上下がれば、市民の生活圏にも前線が入ってしまいますよ」


「なに、構わないだろう。彼らにも合衆国市民として、そのくらいの覚悟はある筈だ」


それが総力戦というものだと、ライエン大将は言う。


「しかし、軍隊とは本来、市民を守る為の銃を手に取っているのです。戦争に勝利して、国民が消失したとしたら、どうでしょうか?」


「例えが極端に過ぎる。市民全員を生贄にする筈がないだろうが」


「そのようなことは承知しています。しかしこれはアデナウアー大統領の意志でもあり、また軍人の範とするところであると確信します」


「ならば、お前の持つI()()()を使えば良いのではないか?」


「どうしてそれを……」


ヒムラー大佐はその言葉に狼狽した。どうしてライエン大将がそれを知っているのか、見当がつかない。そして何より、()()()()()()()の前で口にしてはならない。


案の定、周りの人間は、困惑した顔を浮かべている。



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