ケープタウンにてⅢ
サブストーリーです。
「調子はどうだね?」
「それが、あまり優れません」
その日、アガトクレス大統領はパイク博士の作業場を訪ねた。しかし、いつもは騒いでいる博士が、この日ばかりはどんよりとしていた。
二人の人間の付き合いとしては嬉しい限りなのだが、それが研究の不調を意味すると思うと、ここは不安がる方が正解だ。
「どうしたんだ?」
「いやー、大変申し訳ないのですが、さっぱり、わかりません」
「何が?」
「原子炉を小型化出来ないのです。私自身、艦載の原子炉など造ったことはありませんでしたが、まさかここまで難しいとは」
「そ、そうか」
これは結構重大な問題である。このカルタゴは、修復が完了すれば、単艦で戦局をひっくり返せる代物だ。アデナウアーの戦艦ハバククとやらを、普通の戦艦対ハバククの比率で拡大したのがカルタゴだと言っていい。
200年放置されていたこれを再生出来るか。それがこのアフリカ内戦を征する為の鍵なのだ。
「だが、何も一から造る必要はないんじゃないか?」
「いや、私も最初はそう思いましたがね、実際蓋を開けてみると、余りにも老朽化しておりまして、再生は不可能と、断じさせてもらいました」
「それだったら、原子炉以外も危ないんじゃないか?」
「いいえ。それはご心配なく。原子炉だけ、素材が異なっていたからですよ」
原子炉以外は殆ど錆びない特殊鋼で造られていた為に無事だったが、原子炉は、放射線遮蔽物で造らないといけないから、劣化が早かったらしい。パイク博士はこれを丸ごと造り直した方が良いと判断したのだ。
「で、いつ頃出来そうだ?」
「全く、見当がつかんのですよ、これが。すみません」
「まあ、博士がそう言うのなら、誰にも出来ないのだろう。わかった」
これは、カルタゴは使えないという前提で戦略を立てた方が良さそうだ。
いや、そもそも開発すら終わっていない兵器を前提に戦略を論じていたのが異常だったのだ。アガトクレス大統領は、流石に追い詰められすぎだろうと自省した。
「ならば、あれを使うしかないか……」
彼は深くため息を吐いた。その手には、以前ノンから貰った幾何学模様の奇妙な装置があった。
「出来れば、その日が来ないことを祈る」
同時に彼はヨーロッパの方を見つめていた。




