リヤドにてⅥ
サブストーリーです。
その日の連合王宮では、国策会議という名の政争が繰り広げられていた。そして、サッダーム首相にとって、この日のそれは特段の緊張を強いるものであった。
議題は今後アラブ連合は誰につくか。これまでも燻り続けてきた問題だが、そろそろ決着を着けたいという思いは全員共通であった。
「我々は、今、ソビエト共和国に味方し、阻むものの何もないインド、インドシナを抜け、日本本土に侵攻すべきである」
そう言ったのは、サッダーム首相にとっては寝耳に水のレザー王である。彼はサッダーム首相と志を共にする王の筈だった。彼は対ソ開戦を唱えていた筈だった。それがどうして。
「ほう。陛下はまたどうしてそのようなことを仰られるか?」
サッダーム首相は「初めて聞きました」というポーズの中に行動する。彼らが交わした密約は、あくまで密約であって、公にしてはならない。
「今の日本は全ての戦力をアメリカかソビエトに振り分けている。一方ソビエトは未だそれなりの予備戦力を残している。これを、日本を叩かずしてどこを叩く?」
それは至極全うな主張だった。犠牲がより少ないのも、効果がより上がるのも、日本を裏切る方なのである。確かに、理論的には向こうに軍配が上がる。
またイランのムハンマド伯爵が賛同し始めたのも彼らの間の裏を感じざるを得ない。
「確かに、西洋合理主義的に考えれば、そうなりましょう。しかし我らは残虐無比の西洋人ではありますまい。どうして盟邦の信義を裏切ろうなどと仰るか?」
「これは全て我らが国民の益を考えてのこと。果たして、己の民草の命は、同盟よりも重いのか?」
「確かに、今この情勢においては、自国を第一に考えるならば、それが最適です。しかし、どうでしょう?もしそうすれば、連合は諸国からの信用を完全に喪失しましょう。それは将来的に見れば甚だしい不利益をもたらすのではありませんか?」
などと云々。議論は平行線を辿った。
サッダーム首相はもちろん、仁義から日本に肩入れしているのではない。彼は水面下で行動を起こし、日本が勝利した後の世界でアラブ連合が大国として君臨出来るよう、様々な伏線を敷いてきたのだ。
「ここは一つ、投票で、事を決しませんかな?」
ムハンマド伯爵は言った。
「投票?」
「ええ。臣民の意志に従わぬ者は、たとい君主であっても、元首には相応しくないでしょう。連合議会の議決に全てを委ねては如何ですかな?」
結論から言うと、これを否定することは出来なかった。王やら伯爵やらが「人民の意志に従う」などと言い出せば、首相にそれに反駁する論理はなかった。




