大本営Ⅳ
サブストーリーです。
その日、帝国に不可解な報せがもたらされた。
「ソビエト共和国が主力艦隊を西方に引き抜いたという。これは本当か?」
天皇は問うた。
このつい先刻にもたらせた報せ。それは、バイカル湖に控えていたソビエト共和国軍のうち、2個艦隊が突如として西方に向かったというのものだった。
これが南方なら理解出来なくもない。やもすれば、アラブ連合制圧を試みていると解釈も出来る。
しかし、今回は西方だ。まさにヨーロッパ国がある方向である。今ヨーロッパ国に攻め入る理由はない筈なのだが。
「全ての情報を統合して、確実と思われます」
山本中将は答えた。帝国が誇る全ての諜報網がこれを証明していたのだ。最早これは紛れもない事実に他ならないのである。
「ならば、どうするつもりだ?」
選択肢は二つに一つ。
この期にソビエト共和国への全面攻勢を仕掛けるか、或いはアメリカ連邦へ兵を増派するか、であろう。
「ここは、アメリカ連邦に圧力をかけるべきであります。ソビエト共和国を落とすには、時間がかかります。しかし、アメリカ連邦を攻撃すれば、即座にアメリカ連邦は欧州より軍を退きましょう」
陸軍大臣は言った。そしてそれは大本営の総意に等しかった。
欧州合衆国を救う方が、対ソ戦の前線を少々進めるより余程価値がある。どう考えても費用対効果が高いのは前者であった。
「皆様、異論はありますか?」
沈黙。これが最善だというのは、議論の隙も残さぬ絶対の解であったのだ。
「天皇陛下、宜しいでしょうか?」
「良い」
「はっ」
大本営が決定に要した時間は僅か5分であった。
その後、鈴木大将にもこの旨が伝えられ、最終的には2個艦隊を対米戦に投入することとされた。
鈴木大将は相当嫌がったが、最後には「優秀な副官がおります故」と承諾した。
これは同時に、対米戦で先に決着をつけ、後にソビエト共和国を打倒するという方向転換を意味した。少なくとも、米ソを同時に相手取るという考えは、いつの間にか消えていた。




