捕捉
「ハバクク、ゼカリヤ、捕捉しました!前方60kmです!」
「来たか。距離は常に30kmを維持。また水上艦隊は包囲を開始せよ」
やはりと言うべきか、氷山戦艦どもは艦隊に先んじて突出してきた。もちろんこの動きは完全に捕捉している。対して、海軍はこれを挟み撃ちするように展開していく。
また、一旦は距離を詰めるため前進し、然るべき距離になれば、今度はハバククの動きに合わせ、後退する。水上艦隊もまた、ハバククから一定の距離を取る。
「さて、どう来る……」
こちらが氷山戦艦の動きを把握しているということは敵に把握されているだろう。こんなわざとらしく駆逐艦を浮かべていたら当然だ。だが問題は、敵がどう対応するかである。最早奇襲は許さない。
「敵飛行艦隊、動き出しました。南北に分かれ、目標は水上艦隊かと思われます」
「了解だ。しかし、ハバククの方は動かないのか」
「現状、目立った動きは確認出来ません」
敵はまず水上艦隊を潰しにかかってきた。妥当な判断だろう。だが、氷山戦艦の方が反応を示すことはなかった。不気味なくらい動じずに大和の方を目指して来ている。もっとも、こちらか逃げようとする限り、追い付かれることはないが。
「作戦は次に移行する。ド・ゴール上級大将とレーマー大佐に、敵飛行艦隊の迎撃を命じろ」
次のステップは、水上艦隊を護衛する為、敵飛行艦隊を迎撃すること。ハバククの所在が分かっているのなら、怖いものはない。敵の飛行艦隊はたったの2個しかなく、こちらの半分を差し向ければ良いだけだ。
但し、これで氷山戦艦がどう反応するかは問題である。
「ハバクク、ゼカリヤ、等速で前進を続けています」
「ちっ、まだまだ余裕、か」
ゲッベルス上級大将は、作戦が問題なく進むことに、大人げない苛立ちを覚えた。氷山戦艦からしたら、三方を包囲されている状態なのだ。それに恐れをなさないとは、余程舐められているらしい。
もっとも、そんなことを思っている余裕もないが。
「敵飛行艦隊、発砲!」
「我が方も攻撃を開始しました!」
「了解だ。そのまま自由にさせてやれ」
ついに戦いの火蓋は切られた。まずは前哨戦、氷山戦艦を中心とし、相対する二つの半円が、その端をぶつけ合った。これまた異様な戦場であり、またそれほどまでに氷山戦艦は強力と目されているのだ。
もっとも、この戦いは互いに消極的なものに終始する。両軍とも、ここで勝ったところで意味はないことを理解しているのだ。相手を寄せ付けない程度の火力は維持しつつも、決して突撃することはない。結果、両軍の命中率は類を見ない程の低さを見た。
ド・ゴール上級大将もレーマー大佐も、ゲッベルス上級大将の意を正確に汲み取れる優秀な人材なのだ。
「水上艦隊、10km円上に到達しました」
「よし来た。そのまま迂回させ、網の準備に移れ」
「はっ」
氷山戦艦を沈ませない網を作る為には、それを挟撃せねばならない。しかし氷山戦艦は2隻あるから、この間に入り込まねばならない。幸いその間は数kmはある。氷山戦艦からある程度の距離を取りつつ、回り込んで行く。
「動くなよ……」
ゲッベルス上級大将はこの時、心底不安であった。ここで氷山戦艦が動きを示せば、計画は容易に頓挫するからである。
水上艦隊が位置につくまで数十分、長い時だった。
「必要なポジションを確保しました!」
「いいぞ!そのままワイヤーを繋げ。但し、絶対に気づかれるなよ」
まだまだ山場は過ぎていない。ワイヤーを繋いだ魚雷を撃ち、氷山戦艦の下に非常に緩い網を作っておくのだ。これが気づかれれば、全て一巻の終わりである。
「魚雷、発射」
「よし」
誰にも見えない水面下、数十本の特殊魚雷が海底を走っているのだ。それはやがて対岸の艦隊の直下で急速な上昇を始める。そして浮きの付いたワイヤーの一端を与えるのだ。
「全艦、ワイヤーの接続、完了しました」
「ふう……後は、敵が動くのを待つだけだな……」
全ての準備は整った。全てが完璧に調和し進んだ。後は氷山戦艦が浮かんでくればチェックメイトである。




