大本営Ⅲ
サブストーリーです。
「此度の戦争、イギリスの勝敗の如何にかかっております」
陸軍大臣はそう言った。例になく現実主義的な言葉である。
「ああ。全く正しい。ここで勝てば、アメリカ連邦は沈む。反対に、負ければ、戦争は泥沼を避けられない」
この時点で、欧州合衆国とアメリカ連邦は完全な戦争状態に入った。つまり、帝国軍は、地球を一周して東海岸からアメリカを攻撃するという荒技を取ることが可能になった訳だ。帝国軍にとっても、イギリスは最重要戦略拠点と位置付けられる。
「して、山本参謀総長、イギリスにおいて、我が方に勝ち目はあるのか?」
ここで天皇その人が尋ねた。
「はっ。誠に恥ずかしきことですが、断言は致しかねますが、勝率はおよそ三分と聞いております」
「三分?些か低いな」
「はっ。申し訳、御座いません。しかし、かつては三厘と予想されていた勝率が、ここまで上がったのです。どうか、ご容赦下さい」
「いや、朕は中将を責めているのではない。これは中将の責でないのは明白であろう」
「はっ」
彼が言うように、この三分という数字は、逆立ちしたところで上がるものではない。最早、天に祈りを捧ぐ以外、帝国軍には叶わなかった。
「勝てば直ちに高橋中将をワシントンに向かわせよう。負ければ伊藤中将に新兵器を渡そう。それで良いではないか」
「誠に、その通りに御座います」
「うむ。要らぬ心配をするより、あらゆる場合でも最善の行動を取るよう善処せよ」
「はっ」
イギリスがどうなろうと、嘆く時間も喜ぶ時間も与えられない。彼らはただただ国家にとって最善の道を示すのみである。加えて、どの道、帝国軍はロンドンの戦いには参加しないのだ。ならば、戦いの結果だけがわかれば良い。不要な情報は精神から遮断すべきである。
「そうそう、新兵器だが、開発の目処くらいはついたのか?」
原首相は陸軍大臣に尋ねた。
「開発までには、およそ2ヶ月が必要です」
「なるほど。わかった。それまでは待とう」
「ありがとうございます」
新兵器も意外とすぐに完成しそうであった。万事休すの各国とは違い、帝国は未だに切り札を残している。




