ユニコーン級飛行空母
だが、すぐにこれまた見慣れない光景が飛び込んできた。
「何だ?あの空母?」
別段戦局に影響を与える訳ではないが、損傷した艦を庇うように展開する空母が2隻。それも艦上機を一切載せていない。
「空母を盾に?そんな筈はないよな……」
まずゲッベルス上級大将の頭に浮かんだのは、空母を戦艦の盾にしようとしているのではないかという予想である。確かに、切羽詰まったこんな状況下では、不要な空母(ロンドンの空港で十分だろう)は盾にするかもしれない。だがそれも、戦艦共々後退しているという事実が否定する。
結論は、謎、である。
「何かこう、修理をしているように見えますね」
東條少将は言う。
「東條少将もそう思うか」
「閣下もですか?」
「ああ」
敵の空母は戦艦の直上に滞空している。それも、今にも衝突事故を起こしそうな近さだ。確認は出来ないが、それは修理をしているようにも見えた。
そうこうしている内に、戦艦と空母は離れ始めた。
「おっ、煙が止まっている」
「確かに、そうですね」
両者は物見でもするかのように言う。
さっきまで煙を上げていた戦艦が、少なくとも表面上は無傷に復活したのである。なるほど、少なくとも、これが艦対艦修理の出来る工作艦というのは判明した。
「応急修理だけなのか、船渠並みの修理が出来るのか、気になるな」
ゲッベルス上級大将は純粋な好奇心を持った。出来ればあれは沈めずに鹵獲したいところ。有用かどうかはともかく、親衛隊が勝手に開発していた兵器とは、興味があるのだ。
「しかし、あれを撃つなと命じるのは……」
「そんなことは命じないさ。鹵獲出来れば鹵獲するというだけだ」
「なるほど。失礼しました」
流石に、上級大将の興味だけで艦隊の動きを阻むのは気がひける。例えば、たった一隻を撃ち漏らしたか如何で、何百人の将兵の生死が左右されるかもしれない。艦隊同士の戦いは、たった一発の砲弾が大戦果をあげることもあるものなのだ。
その後も作戦は順調に進み、あと数km進めばロンドンをも砲撃出来るというところまで来た。
海軍は変わらず時間稼ぎに徹し、敵味方共に損害軽微である。飛行艦隊の方も、あの空母のせいで若干ペースが乱されているが、それでもこちらの優勢が覆ることはなく、順当にロンドンに迫っていた。
「奴ら、いつ出てくるんだ?」
「もうじき来るでしょうね」
「ああ。警戒しておかねば……」
このまま敵が黙っているとは思えない。
これ以上下がれば、それはロンドンの上空であり、最早防衛の体を為さない。故に、ここで最後の攻撃を仕掛けてくる可能性がある。
「若しくはこのまま撤退か、あるいは地上戦に移行、ですかね」
「地上戦、勘弁して欲しいな、それは」
「ごもっともです」
もちろん、敵軍が素直に撤退してくれる可能性はある。実際、アメリカ連邦が再び対日戦に追われ、そこに回していた2個艦隊を大陸に向けられるならば、普通に互角の勝負に持ち込める。
だが、どうせ奪われるなら、最後まで使い潰したいのが人の常。ロンドンで泥沼の地上戦に持ち込まれる可能性もある。いや、寧ろその公算の方が大きい。ロンドンを破壊することすら、彼らにとってはメリットなのだから。
「地上部隊はそれなりに用意してあるが……」
「まあ、艦隊さえ殲滅しておけば、部隊は送り放題です。心配には及ばないでしょう」
「ああ、確かに、その通りだ。この世界では、それが真理だな」
この時代は、かつての世界と比べ、上陸する側に有利な世界と言えるだろう。
まず上陸出来たとして、かつて人々が悩んだのは、補給と援軍の不足である。当然、敵軍は上陸した部隊を潰しにかかってくるだろう。そこで、これに対抗出来るだけの戦力を常に送り続けなければならなかったのだ。
だが、この時代、地理的には完璧に孤立した都市しかないのなら、内地からの増援などという概念もない。相手は常に孤立無援、こちらの主砲が届く範囲にいるのだ。それで上陸が失敗する筈はない。
また、いつかは戦闘が終わる。都市という明確に区画された空間を全て制圧すれば良いのだから。
「まあ先のことはいい。今は目の前の砲戦に集中しよう」
「もっともです」
どれも艦隊決戦が完了してからの話。今はまだ早い。
こちらの損害は軽微だが、それは敵軍も同様。まだ終わりには程遠い。




