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終末後記  作者: Takahiro
2-5_バトル・オブ・ブリテン
422/720

定石

さて、来た。


「敵軍を補足しました」


「やっとか」


「はい。敵軍2個艦隊はロンドン南東20km付近にて、我々を待ち構えているようです」


やって敵がレーダーに捕捉出来た。だが、どうもおかしい。ロンドンに余りにも近すぎるのだ。本来、定石に則れば、第一防衛線はより前方に敷き、じりじりと後退しながら敵の戦力を削ぐべきなのである。


これは、ゲッベルス上級大将をして困惑せしむるに十分足るものであった。


「これは罠か?」


「例え罠だったとしても、定石通りに攻めれば、まず負けはしないでしょう」


東條少将は言った。


「確かに、それもそうだが、だとすれば、敵はもう少し賢明な策を取るだろう」


普通に考えれば、倍する敵に勝てるとは思わない。ましてや、ここはドーバー海峡の真ん中で、地の利すらないのだ。そこで奇策を用いて勝利を勝ち取ろうと思うだろうか。時間稼ぎに徹するのが普通の思考だ。


「しかし、定石が最適な作戦であることに、疑いはありません」


「確かに。それもそうか」


定石とは即ち、大艦隊を以て巨体な横陣を敷き、敵を半包囲、殲滅するというものだ。捻りはないが、隙もまたない。


戦争とは本来、常に相手よりも有利な状況を整えて望むべきものだ。それは戦力であったり、政治的な大勢、地の利であったりする。


これが本来あるべき戦争であり、定石というのはこの状況を前提としている。状況が不利であれば、勧められるのは速やかな撤退である。故に、この圧倒的有利な状況の下では、奇策など弄せず、素直に定石に従うべきなのである。


さてここからは余談だが、大衆は往々にして「圧倒的不利な状況からの逆転劇」を演出した将軍こそを名将と賛美するが、それは全然間違いである。


もしも一戦でも敗北すれば、彼の国は瓦解するではないか。本当の名将とは、兎に角あらゆる手段を講じ、常に勝てる状況を作り出す人間のことを言うのだ。


歴史を見れば、一時は戦争の天才として名を馳せた将軍も、いずれの時にかは敗北している。ナポレオンなどは良い例だ。彼は戦術において天才だったが、戦略においては凡人であった。


ただし、例外の言うべき人間が一人おり、それはマケドニアのアレクサンダー大王である。彼は、特にペルシア討伐においては、数倍の敵軍の前に無敗であり、ついにペルシアを滅ぼしてしまった。


もっとも、これは凡人が真似出来る代物ではないし、真似しようものなら、自らをも滅ぼす大火傷を負いかねない。


「よし。作戦は変更なし。陸海軍で敵軍に総攻撃を仕掛け、これを殲滅する。全軍そのまま前進せよ」


結局、特に作戦に変更はない。艦隊は進む。


「敵水上艦隊、動き出しました」


「ほう。ただでさえ少ない戦力を分割するか」


敵水上艦隊は艦隊を東西に分けた。アメリカ連邦軍と自由アフリカ軍に対して別々に戦おうというのだろう。


「作戦に乗ってくれた訳だが、或いはこれすら読まれているかもな」


「例え読まれていたとしても、問題はないのでは?」


「ああ。多分、窮余の策だろうな」


ヨーロッパ国軍の作戦は、海軍で敵海軍を牽制し、飛行艦隊同士の戦いを邪魔させないというもの。そのまま敵飛行艦隊を殲滅し、最後には三方からの包囲で敵海軍を殲滅し、悠々とロンドンに上陸するのだ。


そして、敵は何と自らその役を買ってくれたのである。少なくとも飛行艦隊を攻撃するのは不可能だろう。


「マーシャル大将と鈴木中将には、適当に戦っておくように言ってくれ」


海軍には好きにやってもらおう。敵を引き付けておけばそれで十分である。


「敵、対艦ミサイル発射」


「迎撃せよ。こちらからの返答は要らん。そのまま進軍し、砲戦に移れ」


敵のミサイルも虚しいものだ。極めて容易に迎撃出来る。被害は皆無だ。


もっとも、ミサイルを撃ち合う意味もあまりないから、ゲッベルス上級大将は構わず前進を選んだ。


「まもなく射程に入ります」


「よし。全艦、主砲に弾を込めておけ」


すぐに主砲の射程が近付いてきた。敵は相変わらずロンドンの前で固まっている。


「撃ち方、始め!」


ついに戦いは火蓋を切った。敵もほぼ同じタイミングで発砲。両軍は砲火を交える。


「戦艦ドイチュラント小破!」


「ほう?運がいい奴らだな」


最初の一撃は向こうの方が高いスコアである。なるほど、侮れる相手ではない。だが戦争は数。


「敵戦艦、中破」


「そうでなくては。全艦、容赦は無用だ。全力で攻撃せよ」


ヨーロッパ国軍が負ける筈がないのである。

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