決死作戦I
崩壊暦214年1月10日00:50
「敵、我が艦隊に接近!」
「なんだと?遂に敵は都市の防衛すら捨てたと?」
現在、連合艦隊は二手に分かれ、カルガリーの南北から迫っている。
しかし、敵は、東郷大将と大和がいる第一艦隊に向かってきている。カルガリー防衛を無視した行動である。東郷大将は、その目的を量りかねていた。
「第三艦隊には、カルガリーへ急ぐように伝えろ。また、第一艦隊は減速の上、カルガリーに向かえ」
敵が巣穴から出てきたのならば、空いたその巣を戦わずに制圧すればいい。そして、その時間を稼ぐため、第一艦隊は遅滞戦闘を図る。
「東郷閣下、艦隊戦力においては、第一艦隊の方が負けています。また、航空戦力も損耗しています。最悪の場合、第一艦隊は逃げに徹する方が良いかもしれません」
先程のプロペラ機攻撃で、7.5tのミサイルを積めた理由。それは、プロペラ機に無理やり第一航空艦隊の戦闘攻撃機のエンジンを載せたからである。
故に、予備のエンジンは残っておらず、稼働率は低下しているのだ。
「確かに、それは道理だ。だが、我が艦隊が必ずしも不利なわけではないだろう」
「と、言いますと?」
「この大和だ。東條中佐。忘れているかもしれないが、大和は数少ない旧文明の兵器の一つ。これを活かさないてはないだろう」
東郷大将は、大和単艦で戦局を変えるつもりのようだ。
「おっ、閣下。やっと、大和の本気を発揮できますな」
相変わらず、緊張感の欠けた近衛大佐は、大和の活躍を仄めかせると、それに食いついてきた。
「そうだとも。存分に、大和を使ってやろう」
「頼みますよ」
「し、しかし閣下、どのように大和を使うというのですか?」
東郷大将と近衛大佐の間で、話は勝手に進んでいるが、具体的のプランは今のところ何もない。
「大和は、敵を挟撃するとき、その片側として使う」
東郷大将が示すのは、大和と、それ以外の艦という、非常に不釣り合いなもの同士でもって、敵を挟み撃ちにしようというものだ。
大和の機動力、射撃能力を活かすのが、今回の至上命題となるだろう。
もっとも、この作戦を挟み撃ちと呼ぶかについては、議論の余地ありといったところだが。
「作戦は理解しました。しかし、大和が艦隊を離れれば、誰が第一艦隊の指揮を取るのですか?」
東條中佐が口に出したのは、当然の疑問。大和は最強の戦力であるが、艦隊の旗艦でもある。大和と第一艦隊を切り離すのは、危険と思われた。
「艦隊を指揮するのは、東條中佐、貴官だ。」
東郷大将は、東條中佐の肩に手を置く。
「だが、心配には及ばない。私が指揮をとれなくなった時の保険だと考えてくれ」
「わっ、私ですか?」
「そうだ」
突然舞ってきた大役に、東條中佐は動揺している。東郷大将は、中佐に連合艦隊を預けると宣言したのだ。
だが、東條は、すぐに役目を把握すると、落ち着いて東郷大将に告げた。
「その任務、全力をもって、承ります。第一艦隊の留守番は、お任せください」
「結構。ついては、戦艦金剛を臨時の旗艦とする。この作戦は、どちらか片翼が崩れれば破綻してしまう。くれぐれも、よろしく頼むぞ」
「勿論です」
かくして、チャールズ元帥渾身の「決死作戦」への対応は決定された。




