カルガリー上空にて
本文と全然関係ないですが、ブックマークしてくれた人が増えると、結構感動します。
崩壊暦214年1月9日22:56
「敵戦闘機接近。あのプロペラ機です」
「ミサイルは、ないな。……ひとまず、迎撃しろ」
先ほどロッキー山脈を荒らし回ったプロペラ機が、またしてもやって来た。チャールズ元帥は、当然ながら、著しい不安に襲われた。
しかし、このプロペラ機、ロッキー山脈では電磁波攻撃で艦隊が動けないという特殊な状況だったからこそ使えたが、今来ても、簡単に撃墜されるだけだ。
チャールズ元帥はその意図を量りかねていた。
「妙に、敵の動きが素人のものだな」
「閣下、あれは自動操縦によるものかと思われます。やもすれば、敵は、あれで特攻を仕掛けるつもりかもしれません」
ハーバー中将は、この時代の自動操縦と、特攻隊を組み合わせるという可能性を危惧する。
「ならば、対空ミサイルも併せ、即座に撃墜させよう」
「全艦に伝えろ」
チャールズ元帥は、艦隊への被害を確実に防ぐため、遠距離での迎撃を命じた。
艦隊から多数のミサイルが放たれ、確実に目標に向かっていく。もはや、敵の意図は挫いたと思われた。
だが、敵はまだ、手を残していた。
「敵機から、対艦ミサイルです!数はおよそ200」
「なにっ、そんな数のミサイルを積んでいたと?できるだけ撃ち落とせ!」
敵機およそ40から、200発の対艦ミサイルである。1機から5発の対艦ミサイルというのは、幾らなんでも多すぎる。
ここで言う対艦ミサイルというのは、重さ1.5tに達するもので、非常に強力なものだ。
それを、およそ15kmの近距離で大量に撃たれるのは、厄介極まりない。
ミサイルは、瞬く間にやって来た。
「カルガリー飛行場に多数被弾!」「リンカーン、ケネディ被弾!」
結果は、敵の狙いを克明に示す。
「被害甚大!地上の戦闘攻撃機に、壊滅的被害です!」
敵の狙いは戦闘攻撃機だ。
この攻撃で、およそ150機の戦闘攻撃機が破壊された。カルガリーの戦闘攻撃機をあてにしていたチャールズ元帥としては、かなりの痛手である。
「敵艦隊接近」
「嗚呼、また、こんなことになるのか」
気づけば、サンフランシスコで見たような光景が、チャールズ元帥の前に広がっていた。
チャールズ元帥は、またもや戦術的優位を失い、日本艦隊と相対するはめになっていた。
「敵は、二方向に分かれています」
「挟み撃ちか」
日本軍は、カルガリー防衛の為動けない米艦隊を、挟み撃ちにしようとしているようだ。
このままでは、一方的に負けるのみだ。
「閣下、相手の狙いが、動けない我々を狙っての挟撃であるのは明白です。
ならば、こちらからうってでるのが良いでしょう。我々は、カルガリーの盾であるより、矛であるべきなのです」
「なるほど、よい策だ。それを検討しようか」
ハーバー中将の策は、二手に分かれた敵を、片方ずつ殲滅しようというものだ。
ただし、一時的に都市をがら空きにするため、敵がカルガリーに達する前に、少なくとも片方は殲滅しなければならない。
「まずは、敵の旗艦である大和がいる方からだ。敵の旗艦をやれば、日本軍は瓦解するはず。そうすれば、勝利は見えてくる」
「そうでありましょう。しかしながら、大和は、旧文明の遺産の最有力候補です。それと戦うのは、些か難があるでしょう」
「だからこそだ。大和を潰せば、将来的なアメリカの状況は改善されるはずだ」
「閣下がそう言うのならば、アメリカの将来の為、この艦隊を犠牲にすることは、私は、厭いません。
幸いにも、これが我が軍の全戦力であるはずはなく、連邦の国力ならば、その損害をすぐに補填できるでしょう」
「よし、決まりだ。それと、時間稼ぎだが、サスカトゥーンに『ケラウノス』の残りを全て使うよう要請してくれ」
「承知しました」
「しかし、これはもはや、決死作戦そのものだな」
チャールズ元帥は、皮肉のように言う。
「全てはアメリカ連邦の勝利の為に、でしょう」
かくして、米軍の「決死作戦」は企画された。