ある少年の記憶Ⅱ
サブストーリーです。
少年はやがて世界の終わりに直面した。彼は幸運にも生き残り、人類の生存圏に入ることが出来た。しかし彼は大日本帝国への郷愁の念を忘れることは出来なかった。
かつて自らに親しく接してくれた天皇陛下が作り上げ率いた帝国は、必ず残存させなければならない。しかしそれには何もかもが足りなかった。
最も足りないものは、「天皇」であった。彼にとっての天皇は、文明崩壊の混乱の中で何処かに消えてしまった。元首なき大日本帝国は、大日本帝国ではない。華族も軍部も内閣も、全て天皇の権威をその根拠としなければならない。そうでなければ、それは最早、帝国ではない。
天皇そして数多の先人が無数の犠牲を払って築き上げた帝国の萌芽を、どうして枯らすことが出来ようか。
そして彼は決意したのだ。彼自身が天皇となり、いつか、本物の天皇が現れた時の為に、帝国の形を完成させていなくてはならない。
いつしか彼が力をつけた時、ついに彼は自らを天皇家の末裔であると僭称し、大日本帝国の復活を宣言した。崩壊暦によれば、その14年のことであった。
彼は完全に消滅した大日本帝国の諸制度を次々と復活させていった。これこそが、後の世でも大日本帝国が文明崩壊以前の体制を保っている理由である。
しかし彼は、これを帝国の完成だとは見なさなかった。天皇として君臨する彼は、何の血統も持たないただの臣民に過ぎないからだ。彼は自らの権威を生涯嫌悪し続けた。
彼は、本物の天皇、3000年の皇統こそが帝国と大和民族を率いるべきだと考えていた。その為に彼は、大日本帝国の全ての力を動員し、天皇の捜索を始めた。
彼は知っていた。屍人の中にも人の知能を残すものがいて、事実上、不老の人間として振舞っていると。ならば、誰かしらでも皇室の方が生きているかもしれない。彼はいつまでもそう信じ続けた。
彼は、ほぼ唯一帝国に残された兵器である飛行戦艦大和も投入したが、目立った成果は得られなかった。
そうして、彼は、傍では天皇の捜索を続けつつも、その時に備えて帝国を発展させていった。特に軍備の増強は、その多くが彼自身の政策によるものである。
また早々に帝国の旧領回収にも着手し、朝鮮、台湾、樺太はすぐさま大日本帝国の施政下に入った。
結局のところ、彼の行動原理は全て、天皇に恩を報いるというただそれだけであった。




