ベルリンにて
サブストーリーです。
国家社会主義ヨーロッパ労働者党のヘス総統は、この日ばかりは依頼をする立場であった。黒い軍服を纏った彼女が向かったのは、ベルリン中心部、ドイツ鉄鋼社の本社である。
世界各国が兵器を国営工場で生産するなか、ドイツ帝国だけは、このドイツ鉄鋼社が軍需品の生産を担っている。ドイツ鉄鋼社は、文明崩壊の際に何とか命脈を保った大企業同士が大胆にも合併した巨大企業だ。その中には当然、歴史に名を残したいくつかの企業も含まれている。
さて、その社長は若いシュペーア氏である。ヘス総統は彼の元に案内された。
「これはこれは総統閣下。ようこそ、お越し下さいました」
「こちらこそ、急なお願いを聞き入れてもらい感謝します」
二人は軽く握手を交わし、高級そうな椅子に座り込んだ。
「私は今日、二種類の兵器の開発、生産を依頼しに来ました」
「でしょうね。どうぞ、お聞かせ下さい」
「ええ。一つ目はロンドン砲、二つ目はムスペルです」
「それはそれは、閣下もなかなかの困難を押し付けなさる」
事前の示談など何もしていないのだが、シュペーア氏にはこれだけで通じたようであった。どこまで情報を仕入れているのか、末恐ろしい男である。
「一応確認を。ムスペルについては開発ではなく、改良をお願いしたい」
「ええええ、わかっていますよ」
「話が早くて助かります」
「それでは、引き受けてもらえますか?」
「もちろんです。我が社に不可能の文字はありませんよ」
取り敢えず、引き受けてくれることは確定である。だが、それだけで終わらせないのがドイツ鉄鋼社。
「これによって得られた技術は、ドイツ鉄鋼のものです」
「そうでしょうが?」
「つまり、これを他国に売ろうが我々の勝手です」
「な、祖国に対するそんな背信が赦されるとでも?」
シュペーア氏は恐らく、ロンドン砲やムスペルの技術を売り捌いて巨利を得る気だ。
「法的には、問題はありません。ですが、もしもライヒ政府が少々のお金を払って下されば、他国には黙っておきましょう」
「ほう。いいでしょう。金なら払います」
「ありがとうございます。それでは、これ以上、言いたいことはございません」
そうしていらついたヘス総統は後に、ドイツ鉄鋼社の解体を決意することとなる。
やっぱドイツにはロマンある兵器が多いですよね。




