若干の後処理
しかし全てが上手くいかないのが世の常である。リアクティブ・アーマーが失敗したのはたったの2隻だけたっとは言うが、それだけでも大問題なのである。
「ダンカンは、自沈処理でいいな。だが、ウィスコンシンは奪還したい」
「ダンカンを捨てるのですか?」
「ああ。それで人が死んでは、もとのこもない。何、代えの駆逐艦くらいすぐ建造出来る」
「承知しました」
駆逐艦ダンカンの乗組員諸君には申し訳ないが、それを奪い返すリスクの方がリターンに勝ると判断された。駆逐艦など月に10隻は造れるから、まあいいだろう。
問題は戦艦ウィスコンシンの方で、こちらの奪還は多少の犠牲ならば許容しうると判断された。よって、白兵戦に移る必要がある。
またこれは、来る闘いへの実地テストも兼ねていた。と言うのも、戦艦クラスの艦には特別に設置機関銃が艦内に置いてあるからだ。
「駆逐艦ダンカン、全乗組員、退去完了しました」
「よし。第一艦隊の戦艦は全て動員し、ダンカンを砲撃せよ」
「了解」
当然ながら、その中にはこの戦艦アイオワも含まれている。ニミッツ大将の前では、自慢の52cm砲が迅速に回転している。
「全艦、撃て!」
ここまでの至近距離での砲撃、そうそう見ることはないだろう。命中率は驚異の十割、一瞬にして船体は叩き割られ、あらゆる構造物が吹き飛んだ。同時に弾薬庫に誘爆、ダンカンは永遠に消滅した。
「よし。で、ウィスコンシンの状況は?」
「はっ。現在、敵侵入箇所から2ブロック以内での食い止めに成功、損害はゼロです」
「それは、機関銃による成果か?」
「はい。現状、兵士は一発の銃弾も撃っていないとのことです」
「流石だな」
艦内の随所に設置した38mm機関銃、通称「アンタレス」の威力は絶大なようだ。最早砲と呼んでもいい程の口径であるが、分類としては設置機関銃である。
この時代、機動装甲服のお陰で、かつて重機関銃と呼称された機関銃も携帯出来るようになった為、更なる分類として、「設置機関銃」が創設された。
因みに、軽機関銃と重機関銃の区別は生身の人間が持ち運べるかで、そこら辺の区別は明確ではない。
現地からの報告によれば、アンタレスの威力の前には如何なる装甲も役には立たず、屍人はめでたくバラバラ死体になったそうだ。
「これは、早急に全艦に配備すべきだな」
「はい。この旨をワシントンに要求すべきでしょう」
「お、ハーバー中将も大きく出るようになったな」
「必要を感じたに過ぎません」
「そうか」
まあアンタレスの制作自体はいくらでも出来るが、いかんせん艦内に設置するのに時間がかかる。全ての通路をこれで塞がねばならないが、そうすると人が通れなくなるから、壁の中に埋め込んで、必要な時に出てくるようにせねばならない。それが面倒なのだ。
「閣下、敵軍殲滅とのことです」
「わかった。念のため、死体……既に死んでるが、を全て調べ、終わり次第外に廃棄、ウィスコンシンの復旧に務めよ」
しかし、「ゾンビの死体」という言葉はなかなか面白い。既に死んでいる奴の死体をどう言い表すべきか、そう言えば連邦はその答えを出していないのだ。
そんな下らないことを考えているうちに、ウィスコンシンの方では作業が完了した。ゾンビとは言え所詮は生物、脳を破壊すれば、死ぬ。その死骸は外で彷徨っているお仲間にプレゼントしよう。
「ふう。これで、終わりだ……」
ニミッツ大将は大きく息を吐いた。
「はい。我々は、勝利しました」
「完全な、勝利だ。この損耗比は、ハンニバルのカンネーにも並ぶ、いや、優っているな」
「カンネーはおよそ1対10でしたので、それは正しいです」
「ああ、やってやったな……諸君!喜べ!我々の勝利だ!」
ここに来てやっと勝ち取った勝利は、単なる勝利に収まらず、歴史上稀に見る大勝利であった。
その日の晩は、艦隊総動員のパーティーが急遽行われた。食材も飾りも、何もかもが足りなかったが、彼らにそんなものは必要なかった。ただ、この喜びを分かち合えれば、それで十分だったのだ。




