リヤドにてⅤ
サブストーリーです。
その日、イラクのレザー王はイランのムハンマド伯爵に呼び寄せられた。
「それで?本日の要件は何でしょうか?」
レザー王は問う。
あくまで王は王。伯爵よりの数段上の存在だ。だが、国家元首同士という慣例上、命令はせず頼むというポーズを取るのがアラブ連合の常だ。
「陛下もそう焦りなさるな」
ムハンマド伯爵は、最近罷免されたサウジの王を除けば、アラブ連合で最も老齢の指導者であり。だが、しわがれた顔から覗く眼光は鋭く、とても油断できるものではない。
「陛下、ウマル師やサッダーム首相を見て、何か感じませんかな?」
「何かとは?何ですか?」
「おや、そうでしたか。お気づきになられていない」
ムハンマド伯爵はわざとらしく驚いてみせた。
「何を?」
「あの二人、貴族の廃止を企んでいると、思いませんかな?」
「な、何?」
地下での話ではあるが、サッダーム首相もウマル師も、共に正義派の仲間だった筈だ。それが裏切るなど、あり得るのか。
「サウジ王を追い落とすというのは第一歩。ファイサル侯爵も、いずれは蹴落とすつもりでしょうな」
「それで彼らに何の得があるというのですか?」
「得?そんなもの、権力を握れるからに決まっておりましょう。王族の排除というのはあくまで口実。それを使って、一人づつ政敵を排除し、最後には独裁をしようとしている。それが彼らの本音ではないでしょうかな」
ムハンマド伯爵は不気味に微笑んだ。そして、レザー王としても笑えない話だ。
サウード王の時は、彼の不正をでっち上げ、大義を確保した。今回は、イスラム共和制の樹立でも大義にするのだろうか。時代逆行も甚だしいが、言いがかりには十分。
「今の話は聞かなかったことにしておこう」
「陛下がそう言われるなら、私に言うことはありません」
「そうか。さようなら」
「ええ。またお会いしましょうな」
結局レザー王はすぐに席を立った。しかし、彼の中には確実に、シリアとアフガニスタンへの不信が芽生えていた。




