大和にて
ちなみにですが、僕、現役の高校生(自称進学校)なので、更新頻度はこのくらいが限界です。
今回から、キーワードにあった人工知能の要素が入ってきます。
ハワイ島に集結した艦隊の一角に、飛行戦艦大和はあった。
かつてミッドウェー沖に沈んだ連合艦隊旗艦の名を冠するこの艦は、その名に恥じず、帝国軍最大の偉容を誇り、帝国東方艦隊の旗艦を務めている。
その艦長は艦隊司令官でもある東郷大将である。一通りの放送を終えた彼は大和の艦橋に鎮座していた。見下ろす乗組員らは皆、闘志に溢れている。
「全艦に通達。これより、『甲号作戦』を開始する」
東郷大将は告げた。
この号令で以て、帝国東方艦隊が一斉に動き出す。エンジンを吹かせ、地上を熱し、飛行艦隊はゆっくりと上昇していく。それは空にあっても地を震わせ、将兵の闘志を現すようであった。
さて、甲号作戦においては、帝国東方艦隊は三方に分かれ、アメリカ西岸の都市に攻撃を仕掛ける。北方は第二艦隊、中央は東郷大将率いる第一艦隊、南方は第三艦隊が担当する。
第一艦隊はサンフランシスコ(現在のサンフランシスコ近郊の都市)に攻撃を仕掛ける計画だ。
サンフランシスコは、アメリカ西海岸最大の都市にして、米軍最強の防衛艦隊に守られた都市である。帝国の宣戦布告により、すでに防御は整っていることだろう。
それを如何に陥とすかが東郷大将の腕の見せ所である。
大和の艦内にて、東郷大将ら、大和のクルー達は来る戦いに身を震わせる。
だが、飛行戦艦は基本的に足が鈍い。大和は例外的に50ノット以上の速度が出るが、平均的には25ノットがいいところである。
まさか他の艦を置いて先に進む訳にもいかず、大和はゆっくりと飛行している。わかってはいたが、なかなかの肩透かしではある。
「近衛大佐、大和の機関は正常に作動しているかね」
東郷大将は、大和機関長の近衛大佐に尋ねる。
「はっ、現在は問題なく、正常に稼働しております。まあ、全速力を出せない大和がかわいそうではありますが」
近衛大佐は若干の悲愴を混ぜた笑みを浮かべた。
「結構。…ふむ、それなら、『大和』本人に聞いてみようじゃないか。大和!」
そう東郷大将が呼び掛けるのは、大和とは言うものの、決して大和そのものではない。彼が呼ぶのは、大和の姿勢制御、火器管制を司るAIである。
どう考えてもそれに人格は要らないのだが、技術部が、それではつまらないとつけてきた人格が「大和」である。
「はい」
早速大和は反応した。大和は静かに、無感情に答える。ちなみに、声は美しい女声である。
「機関は正常かね」
「はい」
大和は二つの問いに全く同じ声で応えた。まさに機械といったところだ。
「近衛大佐に言われて気づいたのだが、君は、全速力を出せなくて不満かね?」
少しからかうように、東郷大将は尋ねる。
「いいえ」
「そうか。なら良い」
「はい」
「……」
大将とAIの奇妙な会話は終わった。いや、自然消滅したのだ。大和結局、「はい」か「いいえ」しか答えなかった。
「これ、いるのか?」
近衛大佐は呟いた。
誰も、何も言えない。気まずい雰囲気とはまさにこのこと。結局、技術部は何をしたかったのか、誰にもわからないのであった。
一瞬の沈黙が訪れるが、それも、敵捕捉の報せとともに、すぐに去っていった。