到達
投稿ミスって抜けてました。
それから数時間後。南北から第三、第四艦隊が合流した。
「上手くいったな。4艦隊をもって、陣を組め」
「了解」
ロッキー山脈攻略艦隊は、たちまちに百をも容易に超える大艦隊となった。もっとも、逆に言えば、全ての戦力を集めてもそれしかないとも言える。
「あとは、敵軍がいくら戦力を投入してくるかか」
「米軍の総兵力はおよそ5個艦隊ですが」
「それを全て投入するか、だな」
先のアメリカ内戦にて互いに殺し合った米軍は、その総兵力を5個にまで激減させている。そのお陰で、一方面軍に過ぎない東方艦隊が、アメリカ連邦と互角の戦いを挑めているのである。
もちろん、その全てを前線に投じれば、数的優位は確保出来る。生産力も向こうの方が上である以上、その方が合理的なやり方かだ。
だが、一方で、米軍が戦力の大量投入を恐れているとも考えられる。かつて、帝国軍は数々の奇策により、米軍に壊滅的な損害を与えてきた。
帝国軍にも共通の事情ではあるが、ここで艦隊が壊滅すれば、後はない。何の抵抗も出来ず、首都にすら攻め込まれ、国家の命運は尽きる。
「まあ、こちらと同数を用意してくるだろうことは予想出来るし、例え5個艦隊がやって来ても、大してやることは変わらん」
「そうですね」
「ああ」
「しかし、逆に閣下は敗北を恐れないのですか?」
「確かに、それを考えると恐ろしいな。だが、決定的な敗北から逃げ続けていても、いずれ帝国はじり貧になる。ならば、決戦を挑んだ方が、まだいい」
度々付きまとう生産力の差は、ここにも陰を落としている。結局、向こうより多くの敵を倒さなければ、帝国は勝てないのである。常にキルレシオが一対一であったならば、あるいはそれより多少良かったとしても、帝国は負ける。
であれば、敵を一兵たりとも残さず撃滅する覚悟の大規模作戦を繰り返し、勝利を重ねるしかない。敵の生産力以上の敵艦を沈めるのだ。
ここは、将軍として、合理的な算盤に頼る方がよかろう。感情論で勝利は勝ち取れぬ。
「閣下、ロッキー山脈をレーダーに捕捉しました」
「来たか。メインスクリーンに映せ」
今回彼らが目指すのは、サンフランシスコとワシントンを結んだ直線上にある都市、デンバーである。当然、突破すべき防衛線はその前方、ロッキー山脈の中央部となる。
何故かと言えば、最早敵に多方面作戦を展開する余力はないと判断されたからである。
東郷大将の時は、敵に多大な戦力が残されていた為、カナダ方面から順々に都市を制圧する必要があった。しかし、全戦力(帝国東方軍と米軍全て)において拮抗している今ならば、一直線にワシントンを目指した方が良い。
「やはり、それなりの砲台が残されているな」
「はい。ですが、戦前の調査と大差はありませんよ」
「そうか。それは良かった。東郷大将閣下の轍は踏まん」
北方、カルガリーの西の辺りは焼け野原になっているが、ここら辺は比較的砲台なども残されている。それらは恐らく帝国軍の脅威となるだろう。
「だが、敵艦隊は、いないのか?」
「え、ええ。全く見当たりません」
「光学迷彩もないんだよな?」
「まだ断言は出来ませんが」
「ああ、そうか。そうだったな」
少なくとも、今見える範囲では、敵という敵が全く見当たらない。レーダーを誤魔化している可能性もなくはないが、相当大掛かりな仕掛けがなければそんなことは不可能で、現実的には考えにくい。
「米軍がロッキー山脈を捨てたと?」
「それは、考えにくいのではないでしょうか」
「だよな」
今次大戦が始まって以来、恐らく最も不可解不可思議な出来事がここに起こっている。どう考えても、震洋を考慮に入れてもなお、防衛に最適な地形はロッキー山脈である。ここを放棄する筈がないのだ。
「どうなってるんだ」
「砲台だけで何とかなると思っている、とかはどうですか?」
雨宮中佐は言う。
「あり得なくはないが、米軍がそこまで無能とは思えないな」
「そうなのですか?」
「ああ。寧ろ、旧政府の干渉がなくなったから、賢くなった公算が高い」
「なるほど」
今アメリカ連邦の実権を握っているのは軍部である。即ち、戦争に最適化された政体だ。
「ですが、チャールズ元帥が前線から抜けましたよね」
「まあ、そうだな」
「だったら、以外と弱くなっているかもしれませんよね」
「そうでもないと思うが」
「ええ……」
確かに、チャールズ元帥の居城はホワイトハウスだ。だが、この時代、ホワイトハウスからロッキー山脈にリアルタイムで指示を飛ばすくらい造作もないことだ。軍事政権ということで、政務よりも戦争を優先出来るだろうし。
結果、何もわからない。




