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終末後記  作者: Takahiro
2-4_第二次ロッキー山脈攻防戦
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治安維持Ⅰ

それからというもの、彼らには悩む以外の道はなく、殆ど無意味な時間が過ぎていった。


だが、そんな折、帝国本土から通信がかかってきた。皇居からのものである。また、伊藤中将宛ではあるが、別に誰がいても構わんとの但し書きもある。そういう訳で、伊藤中将は会議室のメインスクリーンにこれを映すことにした。


「中将、ご苦労」


御前会議の映像が映るや否や、一人の優しげな顔立ちの男、原首相が声をかけてきた。


「これは原首相。ありがとうございます。それに、首相も、御元気なようでなにより」


「なに、これでも、私も疲れているんだぞ」


「そうですかね?まあ、そういうことにしておきますが」


「ああ、そうしてくれ」


会議はまだ始まっていないようだ。と言うか、始まる気配も見えない。雑談のはっきりとしない声ががやがやと聞こえてくるだけだ。


「どうして私を呼んだんですか?今呼ぶ必要はなかったのでは?」


「ああ、そうだな、今は、人を待っているんだ」


「誰です?」


「鈴木大将だ。あいつ、近衛大将であるのとにかこつけて、見事に遅参しているのだ」


「ふっ、あの方らしい」


話を聞くことには、なんとその鈴木大将自信が、今回の会議を招聘したという。まさかその本人が遅れるとは。二等兵に至るまでに呆れられるだろうと言ってやりたい。


「で、今回の案件は何ですか?私を呼ぶということは、それなりに軍に関係すると思われますが」


「ああ。今回のそれは、占領地の治安維持についてだ」


「おお、それはいい。実は、我々も、そこを悩んでいたところです」


いずれは本土と掛け合うつもりであったが、まさか向こうから建議してくるとは、何という幸運。しかし、対ソ戦の鈴木大将もまた、同様の問題に悩まされているという。これには帝国の限界というやつを感じざるを得ない。


「そうなのかね?それは奇遇だな。ちょうどいい、じっくり話そうか」


「ええ。お願いしますよ」


そしてそれからおよそ半刻、ついに鈴木大将がやって来た。立て掛けたモニターに姿が映るだけという滑稽なことは、誰も触れてはならない禁忌である。


「申し訳ありませんね。鈴木大将、ただいま参りました」


「遅いです。はあ、まったく」


山本中将は言う。参謀総長というのも大変そうである。まあ知らんが。


「すまんすまん。そして、ええ、では、早速会議を始めましょうか」


「はい。始めます」


会議は唐突に始まる。


「まず、議題は、占領地における治安維持。それで間違いないでよね?」


皆、首を縦に振る。


「はい。もっとも、私の方で結論は出ておりましてねぇ、今回はご裁可願いたいと思い、はるばるペトロパブロフスクより、通信をかけた訳です」


「何なのですか?それは」


通信に距離など関係ないだろうと思いつつも、伊藤中将は思わず問うた。これはなかなかに気になる話だ。


「まず、短期的には大東亜連合からの警察力の大量投入、長期的には、現地人と軍を混合した治安部隊を作ることです。当然、それなりに強力な傀儡政府も必要となりますね」


「なるほどな。確かに、それならば何とかなりそうだ。だが、他に問題がないとも言えんだろう」


「ええ。その為の話し合いですから」


これは、一見有効な策と見えるが、間違いなくその他の場所に皺寄せがくるものだ。


「そうですねぇ、まずは短期的の方の話をしましょう。山本中将、それでいいかな?」


「ええ。構いません」


「よし。しかし、どうですか?これを今すぐに裁可して頂ければ、楽なのですがね」


こちらは誰もが考え込んだ顔をして動かない。


「大将、国内から警察を消せというのか?」


「はい。暫くの間は、そういうことになりましょう」


「仮にも帝国の国務大臣が、それを簡単に承諾すると思うかね?」


鈴木大将の案では、現地で統治機構が完成するまでの間、治安維持の為に警察を東西に送り込むことになる、だが、それでは国内の治安機構が全く空洞化してしまう。その任務がただの治安維持ばかりではなく、武装勢力等との衝突も考えられる以上、かなりの頭数を送り込む必要があるからだ。


「まさか。しかし、ここは認めて頂くしかないのですよ。このままでは、帝国は緩慢な()を迎えますよ」


「なっ、何を言う!帝国に敗北などあり得ないだろうが!」


とっさに叫んだのは例の陸軍大臣である。そして、これは渇れだけに限った話ではなく、一部(伊藤中将含む)を除き、寧ろ大半が彼を批判した。


「お静かに!よろしいですか!」


鈴木大将は叫ぶ。


「帝国は、残念ながら、長期戦に耐え得る能力を持ちません。よって、私は、()()()()、短期決戦を主張しているのです。寧ろ、国内が手薄になる()()で、私の意見に賛同しない臆病者を、私は糾弾させて頂きます。以上」


一気に誰もが黙り込んだ。沈黙がその場を支配した。彼らは自らの愛国心の中途半端なことに驚き、或いは自らの愚鈍さを悟ったのだ。



警察予備隊が出来た時ってこういう感じだったんですかね。

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