ロッキー山脈山麓にて
タイトルが、すごいのどかな雰囲気のものに思えてしまう。
崩壊暦214年1月9日21:52
「ひとまずは、勝ったな」
「はい、間違いありません」
ロッキー山脈に対する電磁波爆弾攻撃は、成功のうちに終わった。
対空砲はほぼすべて破壊し、駐留している米艦隊へも大きな被害を与えた。
そして、連合艦隊はロッキー山脈の麓にまで来ている。地上では要塞の残骸から未だに火が燻っている。散々な姿になった人工物たちだ。
「大和、敵の反応は?」
「レーダー、ソナー、目視、いずれにも反応はありません」
先程のように奇襲を食らってはかなわない。あらゆる手段でもって索敵をするべきだろう。結果は安全とのことである。
「結構。山脈を越えるぞ」
だが、敵は既に撤退したようだ。完全に行動不能となった艦は放棄され、地上に打ち捨てられているが、他のものは見当たらない。
連合艦隊は、山々の間を縫って、その先へと進んでいく。
不気味なほど、そこは静かであった。
だが、そこから全てが燃え尽きた訳ではない。
「地上に生存者を確認。屍人と交戦中の模様」
その時、大和は生存者の存在を報告した。
地上のフェンスや機銃は殆どを破壊したため、米軍には、屍人を撃退する有力な手段がない。
地上では、米兵達が自動小銃を片手に屍人と闘っているようだ。屍人は、光に群がり、周囲から集まりつつある。このままでは、いずれ喰われてしまうだろう。
「救助に、雪風とイ-13を出せ」
東郷大将は、迷わず救出を指示する。
駆逐艦雪風で屍人を追い払い、輸送艦イ-13で米兵を移送する。一応、ミュンヘン条約で定められた義務である。
「他の艦は、このままカルガリーに進む」
この、二隻を残し、他の艦は前進していく。
雪風は、屍人からの救助活動を意味する、緑と白の旗を掲げ、順風満帆に救助を進めているようだ。このままでも問題はないだろう。
「ん、人、か?」
その時、ある米兵は、小さな人影を見たと語った。
「カルガリーをレーダーに捉えました」
山脈を越えると、その先の軍事都市、カルガリーが大和艦内のモニターに写し出される。
「ほぅ、今回の敵は、人々を守ることは捨てたようだな」
東郷大将は、呟く。
敵はカルガリー上空に艦隊を展開し、都市の対空砲との連携、都市の空港の利用を前提としているようだ。
「使えるものは使うのは、戦いの定石です。そして、またもや、我々の優位は失われたようです」
先ほどまでは、連合艦隊の戦力が全面的に優位だと思われたが、都市と合流した米艦隊は、航空戦力においては、ほぼ同等になっている。
「せっかくの電磁波爆弾は、もう使ったからな。そろそろ、真っ向勝負を挑む時が来たか」
連合艦隊も、大きな損害を受けている。米艦隊にはそれ以上の打撃を与えたが、相手には地の利がある。
「敵ミサイル、確認しました」
「何、この距離で撃ってくるだと?まあいい、迎撃せよ」
唐突に、敵はミサイルを放ってきた。
両艦隊の距離はおよそ200kmである。これ程距離があれば、ミサイルの軌道を計算し、迎撃するのは容易である。
大和以下の戦艦は、次々とミサイルを撃ち落としていった。
「また来ます。数は……900です!」
「900だと!?大和、いけるか?」
「最善は尽くしますが、不可能です」
その後は、大和の言った通りになった。勿論、大半のミサイルは撃墜できるが、一部は艦隊に命中してしまう。
「金剛、長門、葛城、天龍被弾!」
攻撃は一瞬にして終わった。
幸いにして、被弾はしたものの、被害は、すべて小破にとどまった。
「戦艦を前面に出し、次の攻撃に備えよ」
東郷大将は、艦隊の陣形を変更し、戦艦を艦隊の盾にする。
しかし、ついに次の攻撃は来ない。
「何だったんだ?一体」
「若しくは、敵の意図は、我々の積極的攻勢を阻害するためかもしれません」
実際、いつ、あのミサイルが翔んでくるかわからない以上、下手な行動はできなくなった。
連合艦隊は、行動の自由を奪われたのだ。
「さて、怯えていても仕方ない。諸君、どうカルガリーを落とそうか」
東郷大将は、作戦会議を始める。
「私に、策があります」
「何だね?」
東條中佐は、真っ先に提言する。
「先ほど使ったプロペラ機ですが、あれを自動操縦にして、敵に突っ込ませるのはどうでしょうか」
「すぐに撃墜されるのではないか?」
「プロペラ機自体は撃墜されても構いません。その直前に対艦ミサイルを放ち、敵を攻撃します」
東條中佐の作戦は、半分特攻のようなものだ。直接の体当たりは不可能だが、至近距離でミサイルを追加で放つことで、敵を攻撃する。
既に被害を与えた米艦隊に、更なる損害を与え、絶対的な優位を作り出す。
また、目標には、敵飛行場も含められた。
「結構。その策でいこう。他に、異論があるものは?」
特に誰も異論を唱えず、連合艦隊の作戦の大筋は決定された。




