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終末後記  作者: Takahiro
2-3_極東の戦い
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バイカル湖にてⅤ

選択肢は、究極的には海軍か陸軍(もちろん飛行艦隊のこと)かという問いになる。海軍を重視するならばソビエツカヤ・ロシアに、陸軍を重視するならば、キエフに乗るべきである。


「よし。決めた。私はソビエツカヤ・ロシアから、全体を統制しよう。陸海軍ともに、対等に独立した軍として、振る舞ってくれたまえ」


ジューコフ大将は海軍をとった。


「不服はあるか?」


「もちろんありません」


「閣下のご命令とあらば、従います」


二人とも、ロコソフスキー少将は若干怪しいが、納得のいく答えであった。これにて旗艦問題は解決された。


「そうだな、まず、日本軍の白兵戦術に対する対策は、何かあるか?」


ジューコフ大将は問う。幾多も艦隊を壊滅させてきた日本軍の白兵戦術、これの対策が出来なければ、いかなる努力も水泡に帰す。絶対に、それも生半可ではない作戦を立てねばならないのだ。


「まずは海軍の方から言わせて頂きます」


と、クズネツォフ少将。


「海軍の策は、まず第一に接近拒否に限ります。艦砲の集中攻撃で敵艦を撃破するとともに、最悪の場合、幾つかの艦艇を物理的に盾にしてでも、湖上要塞を堅守する構えです」


以前の米軍の失敗は、日本軍の駆逐艦を訝しむあまり、対応が後手後手に回ってしまったが故のものである。よって、ソビエト軍は、一切の容赦なく全火力を水面に投入し、もって敵艦を撃沈する。またそれが失敗した場合も、特攻に特攻をとばかりの対策もある。


「確かに、()()()()()()()()()、問題はないだろう。だが、空からの脅威に対しては、どう対応する?」


「恐らく、空からの襲撃は、大きな脅威たり得ないかと思われます」


「どうしてだ?」


「まずもって、湖上要塞の装甲は、830mmに及びます。到底歩兵の武器で破れるものではありません。それに、湖上要塞は全て改修を施しており、対空火器を水平に向けることが出来ます。小銃程度と比べ物にならない威力の電磁加速砲ならば、何の抵抗の許さず、奴らを殲滅できます」


荒技ではあるが、望みは大いにある。所詮は人の作った兵器、人の知恵で対抗出来ない筈はないのだ。海軍の方は問題ないだろう。


「で、陸軍の方は、どうだ?」


「我ら共和国陸軍は、白兵戦での勝利しか考えていません。乗り込まれたなら、直ちに皆殺しにしてやればいいのです」


これはなかなか、海軍の比ではない暴論である。ただ、湖上要塞にあって飛行艦にはないものが多すぎることも鑑みると、案外妥当な見解であると思えなくもない。


装甲を厚くする、対空砲を付け足す、など流石に無理である。戦艦の対空砲は、ほぼ全てが舷側に取り付けられており、根本的に内側を向くような造りをしていない。副砲も同様で、つまるところ敵機が乗り移ってきた時点で侵入を拒否する手段は潰えることになる。


「勝算はあるのか?」


「もちろん、あります。まず、平壌の敗北は、貫徹力のない武器を用いたせいでありました。つまり、兵員には基本的にライフルを支給し、また確実にゾンビどもを仕留めさせれば、大方勝算はあります」


確かに、アサルトライフルは全く効かなかった。それに、例え奴らの装甲を貫いても、奴らが怯むこともないのである。であれば、一撃で装甲を貫くライフルで、一撃でゾンビを仕留めるよう、脳か心臓でも狙えばいいのである。


「だが、知っているか?ソビエツキー・ソユーズを襲いやがった、クラミツハという女を」


それを口にする時、ジューコフ大将は初めて本気の表情を見せた。それはたったの一人で戦艦一隻を制圧した悪魔の名だ。あいつを何とかしなければ、何も為し得ない。


「知ってはいます、当然。そして、あの女への対策も、当然、立てています」


「おお。是非、効かせてくれ」


「はい。つまりは、あいつに銃を撃たせなければいいのです。あいつは、至近距離で銃を撃ち、兵士の機動装甲服を貫いてきました。ならば、それが可能である間合いでは、銃を撃たせなければいいのです」


「そんなこと、出来るのか?」


クラミツハは格闘技術においても一流に属する奴だ。単に弾丸を弾く装甲を身に纏っている訳では、断じてない。それと接近戦など、果たして可能なのか。


「はい。閣下。つまりは、剣と斧で戦えば良いのです」


「……は?」


「剣と斧です。場合によっては盾があってもいいですがな。上手く角度を取れば、機動装甲服が貫通されることはありません。そして、それが自動小銃で貫通される距離というのは、ちょうど剣の間合いくらいです。であれば、銃床で殴り合いをするより、初めから白兵戦の為に作られた武器を使いべきです」


「なるほど。だが、そうは言っても、一発撃たれたらどの道重症なのだから、あまり剣が優位とは思えないな」


一瞬でも銃口が正面を向けば、それは負けが決まる瞬間となる。やはり、ジューコフ大将には、いまいち釈然としないものが残っていた。


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