電磁波爆弾攻撃
崩壊暦214年1月9日20:32
すっかり日は落ちた。チャールズ元帥はロッキー山脈の陰で日本軍を待ち構えている。
「敵機影確認。数は43」
「43?少なすぎやしないか?」
ロッキー山脈に迫ってきたのは、わずか40程の戦闘攻撃機。先ほどまでは400はあったというのに、これしかいない。
チャールズ元帥は、当然ながら罠かと勘ぐる。
そして、更に理解不能な報告が飛んできた。
「敵戦闘攻撃機は、時速500kmで、その……」
「何だ?」
「プロペラ機です」
「はい?プロペラ機?時代錯誤甚だし過ぎるだろう。本当か?」
チャールズ元帥は、完全に混乱している。プロペラ機など、実用的だったのは450年前だ。
それは、アイオワがタイムスリップしたと説明した方が合理的と思えるほど、信じられない事件だった。
「失礼ながら閣下、私が判断する限り、敵は、間違いなくプロペラ機です」
ハーバー中将は、現実を報告する。
「何をしたいんだ、敵は」
「私にも量りかねます。しかしながら、プロペラ機ならば、迎撃は地上の対空砲で容易にできます。必要以上のことはせず、撃ち落とせばよろしいでしょう」
ハーバー中将は、サンフランシスコの戦いで、艦載機を壊滅させられた二の舞になるのを厭い、消極策を提言する。
「私も、そう考えている。この前は、最悪だったからな」
米艦隊は、ひとまずは様子見を決めた。
その時、火急の報せが飛んできた。
「敵ミサイル接近!」
「数は?」
「一本だけです」
「一本?また意味がわからないぞ、これは。迎撃しろ」
再びの理解し難い報告の前に、チャールズ元帥は立たされた。
「敵ミサイルの目標は、艦隊の上空になっているようです」
何故か、ミサイルは艦隊を狙う気すらないらしい。また、後背の都市を狙うのかと思われたが、それも違うらしい。
チャールズ元帥がレーダーで、ミサイルの軌道を追っているとき、それは起きた。
なんと、そのレーダーが消え失せたのだ。それどころか、艦の電源は落ち、何も動かなくなった。
一瞬にして、艦内は闇に包まれる。
「何があった!くっ、すぐに復旧しろ!」
チャールズ元帥が命じると、艦橋の乗組員は総出で、原因を調べ始める。
しかし、チャールズ元帥が外を見ると、そこには驚愕の光景が広がっていた。
「なっ、すべて止まっているのか」
米軍のすべての飛行艦、砲台が停止していたのだ。一帯は完全に光を失った。
一向に不安だけが高まっていく。闇の中、乗組員は懸命の復旧作業をしている。
しかし、その艦橋に、プロペラ音が迫ってくる。そう、日本軍だ。ジェット機の重い音とは違う、風を切る音。
大昔、空襲をされる側は、こんな気持ちだったのかと思いながら、チャールズ元帥は、その音を聞いている。
音が、極限に大きくなったとき、突然周囲は明るくなった。しかしそれは、米軍が発する電光ではない。
炎の橙だ。日本軍は、一方的に爆弾を落とし続ける。
「くそっ!また奴らやりやがった!復旧急げ!対空砲があれば、絶対に勝てるんだ」
しかし、日本軍は待ってはくれない。次々と炎が上がり、対空砲は破壊されていく。
飛行艦も爆撃され、火の手が上がっている。幾つもの艦が炎上している。
そして、アイオワ上空にも日本軍機はやって来た。それは、アイオワの艦橋の目前を横切っていく。
「あれは、ZEKE、なのか?」
彼には、そこで炎に照らせれたものは、大日本帝国の伝説の機体と伝わる、零式艦上戦闘機にしか見えなかった。
そして、チャールズ元帥には、450年前の亡霊が復讐に訪れたように見えた。
「まだなのか!早くしろ!」
「閣下、復旧します!」
やがて、アイオワの電源は復活し、アイオワに灯りが灯る。だが、既に日本軍は撤退した後だった。
要塞は壊滅し、艦隊も、多くが大破着底状態である。辺りは、未だに燃えている。
ロッキー山脈防衛線は壊滅した。またも、米軍は、戦術的優位を失ったのだ。




