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終末後記  作者: Takahiro
2-3_極東の戦い
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オホーツク地上戦Ⅲ

崩壊暦214年12月31日09:23


鈴木大将にとって、今年最後の日は戦争であった。


オホーツクに上陸した帝国軍は、その3倍ものソビエト軍と交戦した。もちろん、正面から殴り合っても勝てる訳はない。故に鈴木大将は幾つかの策を講じた。


まずは空城の計。本来、この語は、あえて自軍の城門を開け放ち、敵軍に罠を恐れさせ、撤退に追い込むという心理戦を指す。


空城の計自体は、史上幾らか行われた例があり、諸葛亮や徳川家康など、名だたる策謀家が用いてきた。一歩間違えたらいとも簡単に全滅するこの戦術は、彼らのような者にしか出来なかったのであろう。


翻って、鈴木大将はこれを攻撃に利用した。中央の戦車隊に余りにも解りやすい挑発を仕掛け、ソビエト軍の攻撃を総攻撃の直前まで防いだ。実際のところ、この部隊には何の種も仕掛けもなかったのだ。


かくしてソビエト軍の防衛線は容易く突破された。


そして第二の策は、防衛線突破後の目標策定に係るものだ。


これには色々な選択肢が考えられる。背後から防衛線を襲撃し、戦線を崩壊に追い込む、オホーツク基地を占領する、オホーツクの政治的中枢を制圧する、などなど。


そして、鈴木大将が選んだのは、オホーツク基地の占領、もしくは破壊である。またこれは極小規模な電撃戦である。電撃戦は、第二次世界大戦でドイツによって初めて実践された戦術だ。


それ即ち、機動力に優る機甲師団を以って敵の前線を突破、敵の司令部にまで浸透し、これを破壊。敵軍の士気と統制を砕き、何が起こっているのか、敵が把握出来ないうちに、その敵は降伏文書に調印しているのである。


オホーツク基地内に押し入った戦車隊は、およそ司令部と思しき建物を全て吹き飛ばした。また同時に、オホーツク基地内に保管してあった大量の武器も頂き、戦車も追加で26両手に入れた。この時代、やろうと思えば、戦車でも一人で運用出来る。


これで敵の統制は瓦解し、更なる総攻撃で敵は潰滅する筈だ。


だが、どうも様子がおかしい。鈴木大将に届く報告も、概ねそれを裏付けていた。


「敵に動揺が見られない?本当か?」


「はい。装甲車隊との戦闘でも、全く乱れがありません」


「ほうほう。わかった」


電撃戦に期待される効果は、全く現れなかった。現在、多くの兵士が、ある意味囮として、ソビエト軍との激烈な戦闘の只中であるが、その負担が減ることはなかったようだ。敵は既に戦車を複数投入してきている。


彼らが全滅する前に、次の一手を打たねばならない。


考え得る可能性は二つ。


一つは、ソビエト軍が実は全くバラバラに、独立して戦闘を行っていて、司令部など必要としていなかった、というもの。ソビエト軍全体が行動する瞬間に立ち会えていない以上、否定は出来ない。


もう一つは、ソビエト軍の司令部が他にあるという可能性である。やもすれば、遥か北で戦っている戦艦あたりから管制しているのかもしれない。


これは検証してみるしかないだろう。


「まず、オホーツク基地内にいない部隊は、全て全力沿岸までで撤退させろよ」


「閣下?それではオホーツク基地が包囲されます」


「大佐、それならそれで良い。もしそうであれば、敵の司令部が何処か別な場所にあると証明出来るであろう」


「なるほど」


まずはこの作戦で敵の現状を見る。それが統制された軍隊なのか、コサックの集まりなのかによって、次の作戦は大きく変わってくる。


それに、オホーツク基地で手に入れた数々の戦利品があれば、それなりに持ちこたえられるだろう。特に戦車の数はドローに持ち込んだ。


「さあ、さっさと作戦を始めよ」


「はっ」


戦場は再び動き出す。既に装甲車のスクラップが良質の壁を作っていた両戦線では、速やかな撤退が叶った。ソビエト軍もわざわざ防衛線から出てくることはなく、砲火ははたと止んだ。


「我が軍が一度消え、次はどう出る?」


鈴木大将は戦場を睨む。


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