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終末後記  作者: Takahiro
2-3_極東の戦い
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オホーツク地上戦Ⅱ

それから更に60分後。


「なかなか、動きませんね」


「ああ、もう訳がわからん、これは」


日本軍の装甲車達は、明らかに攻撃の構えを見せた。だが、その後硬直して一切動かない。肩透かしもいいところである。また、代わりに進撃(はしていないが一応そう言っておく)してきているのは例の戦車隊であった。


ジューコフ大将もこれにはお手上げである。


「とにかく、警戒は常に最大に保ち、常に銃を前に向けておかせよ」


今出来ることはこれだけだ。もっとも、前線の将兵は相当な緊張感を保っていたようで、この命令に意味がなかったが。確かに、旭日旗掲げた戦艦が何隻も空を飛んでいたら、それは気を抜けるものではない。


それから数分。


「閣下!敵、装甲車の方が、両翼とも動き出しました!」


「来たか。前線に警報を鳴らせ!迎撃開始だ!」


散々待たせて、やっと来た。日本軍は遂に攻撃を開始したのだ。


流石は装甲車といったところ、市街地であることを考慮してか、全力ではないだろうが、それでも時速120kmは出ている。第一防衛ライン(という名のただのバリケード群)に達するまで、15分程か。


「さて、あと我々に出来ることは、ただ勝利を祈るくらいだな」


「そうですね。今のところは」


「ああ」


ソビエツカヤ・ロシアの仕事は、戦場を遥か上空から俯瞰し、全体の作戦を練ることにある。その場の指揮は現場に一任であるし、後はただ決まった動きをしてもらうだけである。


だが、日本軍には更なる作戦があった。


「か、閣下ぁ!敵戦車が、急速に動き出しました!」


「見れば分かる。それを詳しく」


「どんどん加速してってます。50、60、70……」


「対応は装甲車のそれと同じだ。落ち着いて対処するよう伝えてくれ」


敵の狙いは、ソビエト軍が囮だと思ったところに本命を仕込むことだ。それもかなり周到なようで、戦車の移動距離を二次関数的に計算すれば、ちょうど装甲車と同じ時間に防衛ラインに接触するのだ。


しかし、ソビエト軍は愚者ではない。戦車の前にも、全ての前線に同じバリケードを置き、特攻に備えている。問題はない筈であった。


「敵戦車、発砲しました!」


「第一防衛ラインに穴が開きました!突破されます!」


「くそっ。そう来るか!」


そう、ソビエト軍は()()()()()()準備をしてきた、いや、してしまったのだ。考えればすぐに分かることだった。戦車なら、主砲で障害物を薙ぎ倒したほうが早いではないか。


アーセナルシップの一件から、ソビエト軍は特攻を恐れ過ぎた。


「中央は前線を下げ続けよ。装甲車の方は?」


「そ、それが、普通に戦闘を始めまし……」


「閣下!第二防衛ラインも一瞬で突破されました!」


「今度こそ特攻か!?」


主砲弾の装填にはどうしても時間がかかる。この短時間で、特攻以外の手段で、防衛ラインを突破するのは不可能だ。


「い、いえ。戦車に、バリケードは、意味がありません!奴らは、バリケードを次々と飛び越えています!」


「何だと!?そこをスクリーンに映せ!早く!」


「はっ!」


そしてそこに映ったのは、映画の撮影から何かように、見事にバリケードを乗り越えていく戦車の姿であった。その勢いは、バリケードを越えると車体が宙を舞う程である。


確かに、一般的なイメージとは真逆で、戦車もスピードは出せるし、ジャンプ台から飛び出すことも出来る。だが、それを実戦でやってのけるのは、日本軍の度胸というか何かである。


そしてこれも第二の失敗の結果だった。戦車ごとき、バリケードで止められると思い込んでいた。それ故に、対戦車兵器の配備は絶無で、このように日本軍のアクロバット走行を見学する羽目になっている。


次、そして最後の砦は、最初から作ってあった防衛線のみ。こちらは、対戦車ロケット、重機関砲、迫撃砲などなどを並べたものであり、対戦車戦もしっかりと視野に入っている。


「最終防衛ラインに、戦闘に備えさせよ。ありったけの弾丸を使わせてくれ」


その命令が出てすぐ、オホーツクから煙が上がった。戦闘が始まったのだ。先手を打ったのは防衛側、しかし敵が怯むことはなく、お返しに23cm砲弾が飛んでくる。


「まさか、ここも強行突破する気なのか?」


ジューコフ大将のその懸念は、そして見事に的中する。


「撃破2ですが、敵戦車、止まりません!」


艦橋には悲鳴が絶えず木霊する。しかし、彼らに出来ることは既になかった。


「突破されました!」


そして、ソビエト軍の防衛線は崩壊した。


被害を厭わず、一両だけでも意地で突破させるという、命を顧みない戦術。敵の作戦は、無視、それに尽きた。たったの9両でも、一つの弾丸となれば脅威であった。


その先には警備兵すら駆り出されたオホーツク基地がある。他の部隊は両翼での戦いで動けない。


ソビエト軍は万策尽き果てた、と思われた。



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