オホーツク攻撃Ⅲ
「では、もう後はオホーツクを落とすだけである。前進した後、オホーツク沿岸を砲撃し、上陸作戦を開始する」
鈴木大将は淡々と告げる。北側の両艦隊は仲良く戦闘を繰り広げ、増援に来る気配はない。否、よもや今からでは間に合わない。
その後も近衛艦隊は威風堂々と前進した。
「オホーツク沿岸まで、45kmです」
「よし。全艦止まれ」
主砲の射程は50kmを超えるくらい、つまり、現在の距離は、オホーツクの少し内陸までを狙える距離だ。間違っても民間人への被害は出なず、向こうの高射砲は届かない。
「全艦、撃ち方始め!」
鋼鉄の咆哮が轟く。降り注ぐ砲弾は地面を掘り返し、砲台を破壊する。港も若干崩れてきたが、そもそも砂浜への上陸も可能な上陸艦には関係ない。
「敵、ミサイルです!」
「迎撃せよ。しかし、無駄だというのに」
最期の断末魔のようなミサイルが飛んできた。それなりの数ではあるが、艦隊からすれば大した脅威ではない。それを遥かに上回る対空ミサイル、対空砲弾が全てを撃ち落とした。
そして、次の瞬間には、ミサイルランチャー群が最期を迎えた。残ったミサイルが誘爆し、火炎が辺りに撒き散らされた。
「終わったな」
「ええ。そうでしょう」
「それでは、〆としよう。強襲上陸艦に通達、全速力で上陸を開始せよと」
「はっ」
今度の役者は、この時までひたすら機会を窺っていた上陸艦隊である。オホーツク南数kmにて、戦艦などを生け贄にしつつ、ただただ待っていた。この作戦はついに破綻せず、この時まで上陸艦に傷が増えることはなかった。
艦隊は水飛沫を盛大に上げながら進む。この時代では珍しい光景だ。敵の攻撃も、飛行艦隊からの援護が全て無効化した。
「ん?閣下、敵の高射砲が一斉に動き出しました」
「高射砲?何の為にだ」
不気味な知らせが訪れた。このタイミングで、高射砲を動かす意味、考えれば一つしかない。
「撃ちました!」
「全艦に、上陸中止を命じろ!急げ!奴ら、是が非でも上陸を阻止するつもりだぞ!」
だがその命令は一歩遅かった。そんな一瞬で艦が止まれる訳はないのだ。そして、ちょうど上陸艦が陸に辿り着いたら瞬間、そこは爆炎に包まれた。
「くっ。奴ら、これが合理的と言うのか。アメリカ人と何ら変わらんではないか……」
確かに上陸は阻止された。だが、同時に、相当数の民家にまで被害が及んでいる。それは、高射砲で至近距離を狙うなどという愚行を犯したからだ。そんな方法で正確な砲撃が出来る筈がない。
自国民を巻き込んだ大規模攻撃によって活路を見いだす、ソ連時代の名残なのか、兎に角、有効であることに変わりはない。
「してやられ、ましたね……」
「ああ。我々の攻撃を誘発させるのが真の意図、か。面白い。ならば、我々も容赦はしない」
「閣下?」
鈴木大将は明らかに怒っている。表情、拳、どこを見ても明らかだ。そして、そんな彼が何を言うのかは、大体予想がつく。
「全艦、オホーツクを焼き尽くせ!最早、向こうから降伏してくるまで、徹底的に叩くしかない!進め!」
ここまでやるならば、こちらも手加減はしない。オホーツクを爆撃し続け、根を上げさせる。そもそも、オホーツクを攻略する理由は、それが邪魔だからであって、究極的には核爆撃でも問題はないのだ。
もう命令は下った。艦隊はその砲を陸に向ける。しかし、その時、ある通信が入った。
「閣下!地上の生き残りからです!まだ全滅はしていません!」
「なに?!そいつと繋げ!」
「はっ」
音だけだが、地上部隊の生き残りと交信が出来た。曰く、大半の兵力は失われ、生存し、かつ戦闘に耐えうる者はおよそ800名であると。また、戦車が8、装甲車が21、残っているそうだ。
「800か。その程度の兵力で、いや、しかし……」
一先ず、オホーツク無差別爆撃は延期された。
そして、顎をつまんで考え込んだ鈴木大将の目に光が宿ってきた。
「閣下、何か、策はあるのですか?」
「ああ。もちろん。不可能という文字は、大日本帝国にはない」
彼は必殺の方策を思い付いた。それも、民間人の犠牲は最小に収まる戦術だ。そして、これで勝ったと思い込んでいるソビエト人に、死の恐怖というものを教えてやろうと。




