ある首相の記憶Ⅲ
サブストーリーです。
さて、不朽の正義作戦が成功してから、およそ一ヶ月。
国連軍はアメリカ東部へと毅然たる進撃を開始。同時に、アメリカ東海岸への強襲上陸、南部戦線における大規模攻勢など、アメリカがいよいよ追い詰められようとしていた時、それは起こった。
「何だと!あのウイルスが流出しただと!?」
首相のもとに届いたのは、帝国が極秘に開発していた新兵器が流出したという報告、そして、文明の崩壊を告げる鐘であった。
世界は地獄と化し、人口の99%以上が失われた。しかし首相は幸運であった。彼は屍人でありながら人の意思を保つ、いわば生命体のバグのようの存在となった。
首相は一先ずは身を隠した。当然ながら、人々は何の疑いもなく、彼が死んだと思った。
その後首相が暮らしたのはアメリカの地である。かつての敵国も、帝国も、滅び去った。今人々が主張する国々は、ただその名を使っているだけだ。まあ、国などそんなものである。
「陛下、今更の愚問ではありますが、こんなところでひそひそと暮らして、陛下はお苦しくはないのですか?」
「そんなことはない。僕はただ、自らの責で滅ぼしてしまった帝国の未来を見届けたいだけなんだ」
「なるほど。そう仰られるのならば、臣めは、ただ陛下にお仕えするのみであります」
「ありがとう」
彼らが身を置いているのは、とある塔の中、極めて安全だと思われる場所であった。
首相はただ君主に仕えることを選び、君主はただ世界に干渉しないことを選んだ。
それは文明が滅んでから200年が経とうと変わらない。彼らは、時折上空を通過する飛行艦を見て、人類の健在を確認していた。帝国の軍旗を掲げた戦艦がやって来た時も、彼らは大いに喜んだ。
国は滅んだが、民族は滅びなかった。彼らは国を再建し、再び戦いを始めたのだろう。
「いや、人間というのも、しぶといものですな」
「その通りだな」
二人は笑いあった。
なんか最終回みたいですね。




