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終末後記  作者: Takahiro
2-3_極東の戦い
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オホーツク攻撃Ⅱ

「このままじゃあ、和泉がか。だったら、他の艦を捨ててしまっても……」


鈴木大将はぼそぼそと何かを呟き始めた。何やら不穏な考えが聞こえてくるのだが。


「閣下、戦艦を盾にしようとか考えていますか?」


「ん?ああ、その通りだ。それ以外の選択が見当たらないし、考えている時間もない。よって、戦艦を一隻用意し、それを和泉の盾とする。異論は認めん」


誰もが現在の危機を理解している。時間は分単位でしか残されていないのだ。よって、異議を申し立てた者はいなかった。


さて、尊い犠牲となるのは戦艦比叡である。和泉の前方を塞ぐように陣取りつつ、比叡の乗組員は全て退艦させ、準備は整った。


比叡の艦長は存外話が早い者で、あっさりと艦を使わせてくれた。この時代、少なくとも「艦と運命を共にする」という思想は前時代的とされ、あくまで人は有効活用すべしという合理論が世界を支配している。


「全艦、徐々に減速し敵艦隊と衝突せよ。ただし、砲火は絶やすな」


鈴木大将の非情な命令は、しかし、最小の犠牲でことを収める為である。それに、実際被害を負うのは戦艦比叡くらいであろう。そもそも敵が戦術的勝利を求めているとは思えない。


「比叡まで、距離800、750、700……」


着実と加速しながら敵は突撃してくる。狙いは明らかに和泉、だがその目の前には比叡がある。


「400、350、300……」


「さあ、殺れるものなら殺ってみろ」


「ですが、これは、全部比叡に当たって止まるでしょうね」


「まあ、な」


既に敵は半減、残存艦もあちこちから煙を吐いている。対して比叡は傷一つない頑強な帝国の戦艦である。格の差というものは明白だ。


「100、50、来ます!」


「おお、これはこれは」


「感心してないで下さい」


敵は先頭から順々に比叡の舷側に突っ込んでいく。今回は、比叡と和泉の距離が近く、三次元的に比叡を避けて進むことも出来ないが故に、こういった力押ししかないのだろう。


だが、哀れなものだ。


次々と飛行艦が突き刺さる比叡は、全く動じることはなかった。あくまで表面が傷付いただけ、艦そのものに甚大な被害はなし。


寧ろ危機的であるのはソビエト艦隊の方である。特攻紛いのことをしたはいいものの、比叡を沈める出力は出せず、また艦同士がぶつかり合い、こちらの方が遥かに沈みそうだ。


「全艦、比叡はどの道、廃棄だ。遠慮はするな。あそこで固まってる馬鹿なソビエト人を撃て!」


「これは、大成功というやつですよ」


「ああ、そうだな、大佐。特攻のやり方くらい、アメリカ軍に教えてもらえばいいものを。はあ……」


「ご冗談を」


古代の海戦さながらの原始的闘争に終始した戦闘も、そろそろ文明の鉄槌を下される時が来たようだ。


周囲を囲う近衛艦隊は一斉に砲撃を再開、比叡もろとも全てを破壊しにかかる。これ程の巨大な的、何処を撃っても命中する。それにソビエト艦隊はろくな反撃も出来ず、戦闘は一方的な的当てとなった。


「敵艦隊司令官代理、ブレジネフ少将より、降伏したいとの通達が、たった今、届きました」


「そうか。通達は受け入れる。全艦、直ちに攻撃を中断せよ。また、憲兵隊を送り、捕虜の管理に努めよ」


戦闘は唐突に終わりを見た。誰もが続きを予想していたその時のことであった。無機の戦艦からも砲撃を止められた驚き、というか困惑が見て取れるようだ。


「大体想像はつくがな、どうして『代理』なんだ?」


「元の司令官が戦死したそうです。何でも、3番目に沈んだ戦艦が艦隊の旗艦だったそうで」


「ほう。運が悪かったのか、馬鹿なのか、いずれにせよ、そいつの轍は踏みたくないものだ」


「全くです」


道理で艦隊の動きに秩序がなかった訳だ。


だが、例え最高司令官が失われても、ひたすら下に権限を移していくのが軍隊な筈だ。推測が正しければ、それは機能していなかったということになる。ソビエト軍の人事と教育はなかなか末期的らしい。


「さてさて、休んでいる時間はない。オホーツクに向かうぞ」


「はい。この程度、何ということもない、戦術的ですらない勝利に過ぎませんよ」


「おお。よく言った」


敵艦隊などどうでもいい。あくまで作戦目標はオホーツクの奪取である。




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