六二式電磁波爆弾
崩壊暦214年1月9日15:36
「大和、ダメージレポート!」
「右舷、第二から第五対空ミサイル大破。第一から第三対空砲大破。以上です」
大和は、率直に被害報告を行う。
「結構。被害は軽いな」
東郷大将の第一艦隊は、先の戦闘で痛手を負い、潰走の最中にある。幸いにして、大和の被害は軽いが、それだけでは戦局は変わらない。
「BU8空域にて、艦隊の態勢を整える」
ひとまずは、戦闘は収束した。だが、このままでは勝利は掴めない。
第一艦隊は、戦艦2隻、巡洋艦3隻、駆逐艦9隻を一気に喪失した。また、多数の艦が中破、小破の判定である。
「手酷くやられましたな、閣下」
この状況でも、何故かいつもと変わらない調子で近衛大佐が言う。
「ああ。敵は、一枚上手だったようだな」
近衛大佐以外の者は、皆、意気消沈としている。
「閣下、先ずは艦隊を立て直しましょう。次の作戦はその後に」
「そうだな。東条中佐、頼むぞ」
「了解しました」
ひとまずは艦隊の立て直しが先である。各艦の損傷を修復し、陣形を再編し、本国に部品の発注も欠かせない。
やがて、恒例の作戦会議が大和で開かれる。だが、今回は半ば結論ありきの議論だ。
「諸君も知っての通り、敵の要塞は非常に堅牢だ。攻め落とすのは難しい。そこで、最新の六二式電磁波爆弾を使おうと思うのだが、諸君はどう思うかね?」
六二式電磁波爆弾。
昨年にようやく完成した兵器である。この爆弾は、周囲数十キロにわたり強力な電磁波を発し、一時的に全ての電子機器を麻痺させる。
「しかし、それでは我々も動けないではありませんか」
「それなら、あてがある。400年前に設計されたようなプロペラ機がサンフランシスコにある。勿論、生産されたのはつい最近のことだが。
この非常に単純な航空機は、然るべき処置をすれば、電磁波爆弾の影響を受けない。これで、敵砲台を破壊する」
東郷大将は、もはや博物館にも残っていないプロペラ機を使うつもりである。
最近の戦闘攻撃機は、精密機器の塊だ。電磁波の影響を非常に受けやすい。
ちなみに、ここでいうプロペラ機とは、簡単に言えば機首にプロペラがついた飛行機のことである。
「しかし、空爆に使う爆弾は起爆しなくなってしまうのではないのですか?」
「それも、旧式の接地信管を用意してある」
「な、いつの間に、そのようなものが準備されていたのですか?」
「なに、技術部の変人どもが勝手に用意していたのを使うだけだ」
「そうでしたか。ならば、異論はありません。もっとも、神崎中佐がその仕事を素直に引き受けてくれるかが微妙ですが」
「早速、本人に聞いてみたらどうですかね」
「そうですね、大佐殿」
そう言うと、東條中佐は、すぐに神崎中佐を呼び出す。
神崎中佐は足早にやって来た。どうも機体の整備の途中だったらしい。中佐は、少し汚れた作業着でやって来た。
「今、忙しいので、要件は手短にお願いします」
「結構。率直に言おう。神崎中佐には、プロペラ機でロッキー山脈を空爆してもらいたい」
東郷大将は、要件だけを端的に伝える。
「ぷ、プロペラ機ですか?何ゆえに?」
「それはですね、………」
東條中佐が事情を説明する。
「もちろん、操作系は今の戦闘攻撃機と同じだ」
「しかし、どうして400年も戻すんですか?ジェット機でも問題ないはずですが」
「それは、技術部の趣味だ」
「はぁ、了解しました。その任務、喜んでやらせて頂きます」
「結構。それでは、サンフランシスコにこれらを要請してくれ」
かくして、第一艦隊の作戦は決定された。神崎中佐にしては不服だろうが、致し方あるまい。
上官に文句を言える、アットホームな軍隊です。