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終末後記  作者: Takahiro
2-3_極東の戦い
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オホーツク攻撃Ⅰ

さて鈴木大将が戯れに出した降伏勧告の受諾の刻限、30分が経過した。しかし、驚いたことに、ソビエト軍から返答のメッセージが送られてきた。


もっとも、流出を防ぐ気のない一般回線を使い、暗号化もしていないという、民間人同士の連絡よりもクソな方法で送ってきたメッセージが重要とは思えないが。


「開いてみよう。一体何が入っているのか、些か楽しみではある」


鈴木大将は面白半分でファイルを開かせた。そして出てきたのは何とジューコフ中将である。画面の中の彼曰く、


「我々は最後の一兵になるまで降伏することはない。加えて、我々は勝利を確信している。知っているぞ、貴軍の艦隊の半分は素人であると。貴軍の健闘を期待している」


と、こんなふざけたメッセージを寄越してきたのだ。


「これほどまでに判りやすい挑発があるか?これだと、これは、敵に秘策があるという線も現実的だな……」


敵の意図は恐らく、帝国軍に意図的な挑発を気づかせ、時間稼ぎをすることだろう。であれば、逆に今すぐに攻撃を始めた方がいい。だが、鈴木大将にはまだ解せない点が残っている。


「時間稼ぎを出来たとしても、ソビエト軍にとっては何も変わらない。ここは我が軍のオホーツクに期待しているのか?」


ソビエト軍の意図が読めない。先程の「最良の選択肢」を採る為に帝国軍を挑発したとも取れるが、ならばメッセージをもう少し工夫するだろう。


「奴ら、我ら帝国臣民を猪突猛進民族か何かだと思っているのではないですかね?」


「それだったら話は早いがな……」


「では閣下、敵が秘密兵器のようなものを保有している可能性は?」


「それが一番の懸念だ。それに嵌める為に挑発したとも考えられるからな。だが、仮にそうだとしても、我々にそれを知る手段はないし、対抗策もない」


ソビエト軍には数多くの選択肢がある。しかし、帝国軍は寧ろその逆で、オホーツク攻撃しか道がないのだ。そこに罠があるとすると、いよいよどうしようもなくなってしまう。


「諸君!まあいい。如何なる結論が出ようと、我々には攻撃以外の手立てがない。よって、全艦隊に可及的速やかなオホーツク攻撃を命ずる。直ちに行動せよ」


帝国艦隊は南北からオホーツクを挟み込んでいき、その間隔はゆっくりと狭まっていく。このまま進めば、オホーツクを挟撃できるという訳だ。だが、ここに衝撃的な報が入った。


「閣下!敵軍は艦隊を2対1に訳、南北に分かれました!敵も愚かだったようです」


森大佐はその朗報を声高らかに告げる。これこそ、ソビエト軍にとって最悪の選択肢であり、帝国軍が期待していた悪手だ。


「よーし!北側は2対2で、勝利は目指さず、ひたすらに敵を足止めせよ!我々南側は、迫る1個艦隊を殲滅し次第、全速力でオホーツクに向かい、上陸艦隊の道を開け!」


これは、勝った。こっちに寄ってくる哀れな敵艦隊を打ち破れば、あとはオホーツクまで綺麗な空を優雅に進めばいい。


「横陣を取れ。敵に十字砲火を浴びせる」


ここは数の利を活かし、半包囲を試みる。普通はここで止まるだろう。だが、敵は何ら軌道を変えず、ひたすら正面に向かって突撃してきた。


「全艦、撃ち方始め!」


砲戦が始まった。たちまちに敵艦隊は砲弾の雨に降られる。しかし、その勢いは一向に衰えぬ。


「なるほど、そういう作戦か。和泉以下第一戦隊は全力で後退せよ!奴らの狙いは我々そのものだ!電撃戦など喰らうな!」


敵の狙いはこの戦艦和泉であろう。相手の首さえとってしまえばどんな犠牲も厭わないとは、立派な精神だ。


それに、実際に鈴木大将を焦らせることにも成功している。万が一にでも和泉が撃沈されれば、帝国軍は敗北を喫することとなる。これが回復力の差というやつだ。


「敵艦隊、なおも止まらず!我との距離が縮んできています!」


既に6隻を撃沈させ、大方の艦に主砲弾をぶち込んだが、敵に翳りは見えない。炎上しながらも狂ったように全身をやめない。そして、それらは確実に和泉を目指している。敵は一隻でも到達出来ればそれでいいのだ。


「最早敵は包囲の中に飛び込んだ!網を限界まで狭め、滅多打ちにしてやれ!」


始め横一直線であった陣形は、今や完全な半円を形成し、その中に敵艦隊を収めている。実に理想的な陣形だ。まともな戦争ならここで白旗を上げるところだ。


だが、砲弾とミサイルを浴びようと、奴らは止まらない。この火薬のパレードの中でも根を上げないのだ。


それに、飛行艦がそうそう沈まないというのは、ついさっき帝国軍が実証してしまった。見事にブーメランを食らってしまったという寸法だ。




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