ヤ号作戦Ⅲ
昨日はすみません。
だが、全方位から攻撃を受け、骨だけの体になっても、それは迫ってきた。いや、もうこの時点で如何なる行為も無駄であったのだ。
「敵艦加速!急速に迫ってきています!」
「なるほどな……ここまで来れば……」
ここまでくると、敵はただ落下していた。ある程度まで近づいた時点で、敵は真西を勝利を確信したのだろう。ソビエト軍はミサイルだと思っていたが、それは寧ろ巨大な砲弾であって、止めるのは困難であった。
「最も左の一隻に攻撃を集中し、他の艦は無視せよ!一隻ならば、完全に破壊出来るかもしれん!」
完璧な防衛は諦めた。そして、せめて被害を最小に納める為の苦肉の策がこれだ。二兎を追う者は一兎をも得ずと東洋に言うように。
途端に、他の二隻への攻撃はピタリと止み、日本軍から見れば最も右の巡洋艦にすべてのミサイルと砲弾が集中した。
凄まじい火力がたった一隻を襲う。海面に残骸が次々と落下していく。そして作戦は一旦成功を見る。
「折れた!よしそのまま……」
「閣下!軌道が変わってません!衝突は避けられません!」
「なに!?」
「閣下、どうされますか!?」
「ああ……くそっ……」
確かに、この可能性は考慮していた。そもそもこちらに飛んできているだけの物体を破壊したところで、その破片もまた同じ軌道を描くのではないかと。
だが、流石にそうはならないとも確信していた。そこまでのエネルギーを加えれば、軌道は歪むだろうと。しかし、恐らくは相当に奇跡的中確率を潜り抜け、作戦は失敗に終わった。
万事休すであった。
その後、目立った戦果はなかった。自由落下に切り替えた敵艦はますます加速し、アーセナルシップとの距離を縮めていった。そして遂にその時が。
「敵艦、我がアーセナルシップと衝突します!」
「そうか……」
ジューコフ大将は半ば放心状態であった。ただそれが起こる様を観察していた。
まず、アーセナルシップの装甲は機関砲を防げる程度のものしかない。こんな特攻を止められる程の強度はなかった。敵艦先の方から食い込んでいく。
これが普通の軍艦なら、生き残れる可能性があった。ただ艦の中央部が欠けるだけだからだ。だが、このミサイル満載のアーセナルシップでは訳が違った。結果は、誰もが予想した通り、大爆発であった。
生存者などいるよしもない。全て爆散した。その残骸から元の艦形を想像することも不可能な程に悲惨な有り様であった。
「アーセナルシップ、3席とも、轟沈しました……」
「ここまでの大敗北を、まさか繰り返すことになるとはな」
ジューコフ大将は乾いた笑い声を上げた。
「いや、まだ敗けた訳ではない。確かに不利だが、艦隊は無事だ」
アーセナルシップが失われたことは、確かに巨大な衝撃だった。だが、まだまだ有力な戦力が残っている。
それも決定的に劣るものではなく、日本艦隊の半分が鹵獲したての我が軍の艦艇であるからに、総合的にこちらが有利である可能性すらある。
「艦隊同士の殴り合いか。やってやろうじゃないか。全艦、プランGを実行せよ」
それは、オホーツクを中心に三方向に艦隊を一つずつ配置する布陣である。鶴翼の陣というやつと設計思想は近い。近づけば包囲殲滅してやるという、どちらかと言えば受動的な陣形だ。だがそれで問題はない。オホーツクさえ守れればいいのだから。
「敵、前進を始めました」
アーセナルシップの脅威を消した日本軍は悠々と前進してきた。オホーツク最後の戦いが、今、始まろうとしている。




