拡大政策
こっから暫く淡白な事務報告ばっかです。すみません。
さて、演説は終わった。
これで全世界に、少なくともNSがベルリンを制圧し、欧州合衆国に挑戦したということは知れ渡った。また、ドイツ皇帝がNSの味方であるということも。
さて、ここからが問題である。
ゲッベルス上級大将とド・ゴール上級大将がこちらに寝返ったとしても、それだけではまだ足りない。内戦というものは、軍事力で決せられる訳ではない。あくまで、如何に民衆を引き入れたかが鍵となる。
飛行艦と言えど、永遠に空に浮かぶことは出来ない。ガリバー旅行記に記されたラピュタのように都市を支配することは出来ないのだ。
最も平和に収まるのは、当該国が欧州合衆国を離脱すると正式に宣言することである。軍はこれを支持するだけでよい。大半は政府に従うだろう。
そういう訳で、これから暫くは調略の時間である。すでに親衛隊の支配下にあるイングランドは除き、その他の全ての国に国書を出す。
これには皇帝ヴィルヘルム5世が協力してくれた。ヘス総統が宮殿に赴き、要件を伝えたところ、二つ返事で国書を量産して頂いという寸法だ。
それに曰く
「朕、ヴィルヘルム・オットー・ジークフリート・フォン・プロイセンは、貴国に通告する。
直ちに欧州合衆国を離脱し、我と同盟せよ。
同盟は、必ず両国の益となるものであると保証する。同盟は、完全に平等な国家同士のものとする。万一、貴国の利益が損なわれた場合には、ドイツ帝国はこれに賠償する。
また、同盟から離脱する権利は、以後永遠に認められる。
上の事例が発生した場合、貴国は、この書を証拠とし、ドイツ帝国を訴えることが出来る。
公平な裁判でドイツ帝国の過失が認められれば、ドイツ帝国は直ちにそれに賠償する。
以上」
これはつまり、全てのヨーロッパ国家にドイツ帝国を盟主とした同盟に参加せよという書状だ。
まあ、これを見て素直に応じる政府はないだろう。どこからどう見ても胡散臭い。平等を謳ってはいるが、ドイツ帝国か同盟において格別の地位を持つことは間違いないだろう。
ただ、政府はそうだろうが、君主は別だ。
この書状はヴィルヘルム5世の出したものであり、実際に皇帝が保証人である。つまり、NSの政権掌握の過程を省みれば解るが、ドイツ帝国は実質的な顕現をも皇帝に返上したということになる。
それはつまり、この同盟に与したならば、君主の権限が強まる可能性があるということだ。野心家のフランス皇帝などは、これを真剣に検討しているに違いない。
兎も角、今は、返答もしくは何らかのアクションを待つのみである。
「それと、ミネルヴァ王女、貴女を信用してよいのですか?」
宮殿で、ヘス総統は尋ねた。
「ええ。最初から、嘘など、吐いていませんよ」
「ならば、是非、イタリアの懐柔をお願いしたいのです」
東のポーランドとスカンジナビア連合王国は東方軍が、西のフランスとスペインは西方軍かある程度干渉してくれる。しかし、南のイタリアとギリシャには、現在、干渉する手段がない。
特に、イタリアはドイツに突き刺さったナイフであり、ここをアラブ連合などが支援した場合、帝国本土までもが危機に晒される。
よって、NSはイタリアを無害化する手段を求めている。そして、ちょうど、ミネルヴァ王女がここにいる。
「ええ。任されました。ご安心下さい。イタリアは、ムッソリーニを、生んだ国です。必ずや、ファシズムを、受け入れますよ」
「それは頼もしい。イタリアへの道は、我が党が用意します」
「お願い、しますね」
ミネルヴァ王女はこれからイタリアに赴き、民衆に蜂起を呼び掛ける。だが、NSも自由アフリカも、大した心配は抱いていない。
ローマでは、依然としてムッソリーニのファシスト党の人気は高い。イタリア議会でも、ファシスト系の国民戦線が野党第一党である。
ファシズム熱に一度火を付ければ、たちまちに全土に広がるだろう。そもそも、ムッソリーニを承認したのは、同じサヴォイア家の人間であるエマヌエーレ3世である。その子孫が革命を呼び掛ければ、効果は絶大である。
戦艦2隻(大和ではない)を護衛につけ、ミネルヴァ王女はイタリアへと向かった。




