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終末後記  作者: Takahiro
2-3_欧州攪乱計画
333/720

ベルリン急襲までⅡ

残り時間は60分。ヒムラー大佐は急ぐ。


目指すは宮殿の中央奥に位置する玉座の間である。荘厳、絢爛、豪奢、優美な装飾も、今や彼の目には入らない。ベルリン市指導者の名で近衛兵を片っ端から引き下がらせ、ひたすら奥に進んだ。


「皇帝陛下!私目は、欧州合衆国ベルリン市指導者、ヒムラー大佐と申します。畏れながら、陛下にお時間を賜りたく存じあげます!」


ヒムラー大佐は玉座の間に押し入るや否や跪き、しかし、半ば無礼に叫んだ。それは不敬罪もあり得る程の暴挙であった。しかし、ヴィルヘルム5世はそんなことなど意に介さないようであった。


ヴィルヘルム5世、既に老人と言える歳ではあるが、近寄れば即座に叩き斬られそうな威圧を常に放っているお人だ。また、宮中でありながら、銀に光る中世風の甲冑を身に纏っている。


皇帝は玉座に悠々と座り、ヒムラー大佐を見下ろしていた。


「ヒムラー大佐。ベルリン市指導者の名くらい知っておる。疾くと用を言え」


「はっ。極めて無礼ながら、陛下には、この宮殿、そしてベルリン、そしてドイツ帝国をお捨になって頂きたいのです」


「ほう。面白いことを言うな」


「陛下、どうか、お逃げ下さい」


ヒムラー大佐はただ請うことしか出来ない。全ては皇帝その人の自由意思によって決まるからだ。だが、ヒムラー大佐としては、皇帝がNSの手に渡ることだけは絶対に避けたい。


「そなたが朕にそう告げる所以は分かっておる。だが、ヒムラー大佐、大佐には残念かもしれぬが、朕はこのベルリンから出るつもりはない」


「で、ですが、このままでは、陛下は、奴らの人形にされますよ!」


「誰が、()()()()()()()()()()()()と言った?」


「なんですと。そう、のたまわれるか」


それは確かにヒムラー大佐が危惧した可能性である。即ち、ヴィルヘルム5世がファシストであるそれである。エマヌエーレ2世がムッソリーニに組閣を命じたように、帝政とファシズムは両立し得る。皇帝がファシストを拒絶する理由は実のところないのだ。


「如何にも。朕は、NSにベルリンの門を開こう。そして軟弱愚鈍な合衆国政府を壊す。全ては臣民の為ぞ」


「ほう。陛下は合衆国を裏切られるか」


「合衆国など、200年前の歴史の残滓。それが消え逝くこともまた、歴史の流れの中にある。朕はただ、時風にこの身を任せるのみ」


皇帝は、私利私欲の為にファシストを受け入れる訳ではない。彼も、あくまで、臣民にとっての最善がこれだと判断しただけだった。それは同時に、欧州合衆国の破綻が覆い隠せないものになっているという証左でもあった。


「わかりました。では、私はもうここにいる意味がないようです。失礼致しました」


「さっさとロンドンにでも行くがいい。朕は邪魔などしない」


「感謝致します」


そして、ヒムラー大佐は宮殿を後にした。いずれ敵になるヒムラー大佐をこうも簡単に逃がす皇帝は、恐らく、「歴史の流れ」を乱したくないのであろう。皇帝は、あえて駒を全て解き放ち、人民の意志を確かめたいだけなのだ。


残り時間は30分。あと30分で、欧州合衆国の首都としてのベルリンは幕を下すのだ。だが、市井の人々は何も知らない。ヒムラー大佐にはとても滑稽に見えた。


そして残り時間20分。ヒムラー大佐はベルリン基地に入った。ベルリン基地にはただ一隻、駆逐艦スコーピオンのみが停泊していた。最後の脱出艦である。


「大佐!お待ちしておりました!」


「ありがとう。すぐに出発してくれ」


「了解です」


ヒムラー大佐がタラップから登り、それが閉じた瞬間、艦は浮かび始めた。流石、親衛隊は仕事が速い。そうして、駆逐艦スコーピオンはロンドンへと飛び立った。






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