現状把握
「ミネルヴァ殿下、殿下の戦闘機が発った空母の名前は分かりますか?」
ゲッベルス上級大将は尋ねる。
「それが、名前までは、分からないのです。ですが、二つの空母の形が違かったとは、記憶しています」
ミネルヴァ王女は、これまた東條少将に語った内容を再度語った。
「なるほど、確かに、その話は嘘ではないようです」
「どういう、ことです?」
「簡単に言えば、私のもとに、殿下が乗っていたであろう空母の情報が届いていまして、殿下の言われた通り、違う級の空母が使われていました」
先程の電報には、確認された空母はユニコーンとクイーン・エリザベスであるとあった。
共に、ユニコーン級航空母艦、クイーン・エリザベス級航空母艦の一番艦である。また、ユニコーンは、一隻の空母でありながら一個の工場並みの設備があるという、異色の空母である。その為、他の空母と比べれば、非常に上下に長い。
「そして問題は、これらがどちらも親衛隊の空母であるということです。これらは、東方軍には一切通知されていませんでした」
もしも、今回の襲撃がテロリスト等を狙った作戦であるならば、東方軍がその任務を遂行する筈である。ところが、実行したのは親衛隊。つまり、これは明らかに中央政府の意思による襲撃だということだ。
「また、ユニコーンとクイーン・エリザベスは、共に北、つまりグレートブリテン島に向かったとあります。ここで、最早明らかですが、親衛隊とアデナウアー大統領が我々の存在を察知している場合、グレートブリテン島に立て籠る計画かと思われます」
「それが何か問題なのですか?」
ヘス総統は尋ねた。別段、親衛隊が消えてくれるならば、越したことはないのである。
「大有りです。アデナウアー大統領と親衛隊を取り逃がせば、内戦は確実に泥沼化します」
「では、さっさと捕まえてしまえば……」
「それが、もう手遅れであるということです」
最早内戦の長期化は避けられないようだった。だが、逆に、何も打つ手がないのならば、気にする必要もないというものだ。ある意味気楽ではある。
「では、情報は出揃いました。最後に確認をしましょうか」
東條少将は言う。
「東方からは、我々が、欧州合衆国東方軍の黙認の下、ベルリン急襲を仕掛ける。そして、それに呼応し、東方軍が蜂起する」
「そして、ド・ゴールの奴が西で蜂起する」
「そして、北と南を叩き潰すと」
それが今回のプランである。
「では、私は、イタリアを、ファシズム化、しましょう」
その時、ミネルヴァ王女が唐突に言った。東、西、そして南にも裏切者を出すというプランである。
「それは、殿下に真が置けると、皆が判断した時です」
ゲッベルス上級大将は堅い態度を崩さない。
「分かりました。では、その時は、宜しく、お願いしますね」
「ええ。我が党は、敵でなければ、誰でも受け入れますから」
さあ、全て決まった。
計画が完全に成功すれば、内戦など起こす間もなく、ギリシャ帝国を除いたヨーロッパ大陸全ては国家社会主義ヨーロッパ労働者党の支配下となる。
後は親衛隊と南方軍の残党を狩れば良いだけだ。
「では、最後はあれで閉めましょう」
東條少将は言う。そして、その右腕を斜め上に突き出した。皆もそれに倣い、次々と右腕を上げ、きっちりと伸ばす。
「ここは、ヘス総統、宜しくお願いします」
「ええ。分かりました」
ヘス総統は大きく息を吸う。そして叫んだ。
「ジーク・ハイル!」
「「「「ジーク・ハイル!!!」」」」
大和の外にも響き渡らんばかりに、その歓声は轟いた。それは、ヒトラー大総統の再来を人々に予見させた。




