襲撃
「では、私はそろそろ退散させてもらいます。私の存在が露見しては、色々と問題がありますので。またお会いしましょう」
「またお会いしましょう、閣下」
そしてゲッベルス大将は静かに去っていく。どうやるかは知らないが、キエフからバレずに立ち去る手段があるらしい。東條少将は彼を見送った。
だが、その時、大和中のスピーカーからけたたましいサイレンが響いた。
『ぜ、全艦!西方300km付近にて、こちらに急速に接近する機影を確認!繰り返す!』
「何だと!?ヘス総統、失礼させて頂きます。それと、ゲッベルス大将も引き留めておいて下さい!」
東條少将は、そう叫ぶと、全てを投げ捨て艦橋へと走っていった。近衛大佐もそれに続く。報告が本当ならば、陣頭指揮を執らねばならない。
艦橋では皆が東條少将を待ちわびていた。
「状況は!?」
「このように」
直ちに、メインスクリーンにレーダーが捉えた映像が流される。
敵機、数はおよそ200、見た目からして戦闘攻撃機、国籍は不明、それが一直線にキエフを目指している。どう見てもやる気だ。
「神埼中佐を呼び出せ!」
「はっ」
そしてすぐにメインスクリーンに神埼中佐の姿が映る。場所は格納庫の
ようで、また、手持ちのカメラで通信しているようだ。後ろでは兵士が慌ただしく行き来している。
「スクランブルがどうとかいう話なら、既に総員が動き始めてますよ」
「おお、それは助かる。すぐに出撃し、邀撃の用意をしてくれ」
「了解です。直ちに全戦力を投入します。では」
通信は一瞬で終わった。
神埼中佐は、既に状況を理解し、最適な準備を進めていた。東條少将の仕事は、それにただゴーサインを出すだけであった。300kmならば、かかる時間は7分程。格納庫から出す時間も含め、何とか間に合うかといったところ。
既に甲板に出ていたものは上空を旋回している。だが、大和に搭載出来る数は精々20機程度、ハンニバル中佐の戦艦アルジェリアと合わせても、自由アフリカ軍としては40機くらいしか用意出来ないのだ。
「閣下、キエフ空港より受電。戦闘攻撃機180機を用意したとのことです」
「おお、ありがたい。神埼中佐にも、それと協力するよう伝えてくれ」
「了解」
キエフ空港にも、それなりの戦力が纏まっている。純軍事的には大した数でもないが、そもそも戦闘を予測していなかった割には、十分過ぎる戦力だと言えるだろう。こちらの自前の戦力と合わせれば、数的優位は確保出来る。
そして4分半程が経った頃。神埼中佐から通信がかかってきた。
「閣下、全機、出撃しました」
「よし。指揮は全て中佐に任せる。戦闘に備えよ」
「了解です」
全機が大和とアルジェリアから飛び立った。そして、艦隊上空でホバリングに入り、来る戦闘を待つ。
「中佐殿、距離100を切りました」
「了解。距離50でミサイル斉射、接近戦を仕掛ける」
「はっ」
神埼中佐の作戦は、特に奇をてらうこともない、普通の作戦である。
「それと、ソビエトの奴らは、こっちに従ってくれてるのか?」
「恐らくは、はい」
「そうか。まあ、従わない理由もないか」
今のところ、ソビエト共和国軍は、自由アフリカ軍の意向に沿った行動をしてくれている。もっと言えば、神埼中佐の命令に従っている。まあ、ソビエト人は合理主義者だ。指揮系統の一本化の理を知っているのだろう。
「距離80……70……60……」
確実に敵は迫ってきている。
「50!」
「全機!ミサイル斉射!」
神埼中佐は命じた。
対空ミサイルは、一機につきおよそ20発ある。そのうち、同時に撃てるのは6発までだ。それを斉射し、合計1300発程のミサイルが一斉に敵に襲い掛かった。
「全機、散開!ミサイル躱せ!敵に接近せよ!」
敵も同様にミサイルを放ってきた。対策は逃げることである。また、敵も同じく散開し、こちらのミサイルを次々と躱した。
被害は双方とも十数機程度。そしてすぐさま機関砲同士の撃ち合いが始まる、と思われた。
「中佐殿、敵が退いています!」
「何?追撃はするな。暫く監視しろ」
敵は、対空ミサイルを放ったと思えば、すぐさま引き返し始めた。神埼中佐はそれを監視するよう命じ、いつでも反撃出来るようにしたが、その時は来なかった。
この戦闘は15分足らずで終わった。




