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終末後記  作者: Takahiro
2-3_欧州攪乱計画
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「彼」との会談

この戦艦大和見学ツアーも終わりを迎えようとしていた時、ヘス総統がふと声をかけてきた。


「東條少将、私も、内密にお話ししたいことがあります」


「え、はい。大和の乗組員も除いた方がいいのですか?」


「はい。お願いします」


「では、いつもの会議室を使いましょう」


そんな会話の結果、一行は、人を全て払った会議室にやって来た。


「それで、内密にしたいお話とは?」


「はい。ここにいる彼についての話です」


そう言うと、ヘス総統は連れの一人を指差した。この一行の中で、東條少将が唯一知らなかった男である。知的な印象を強く残し、しかし、弱々しい感じはなかった。


「そうですね、では、上級大将閣下、お話を」


ヘス総統はその男を「閣下」と呼んだ。ゲーリング大将の方は部下として扱っていたことから察するに、この男はNS党員ではないようだ。


さて、彼は語り出した。


「どうも、まずは名乗ることから始めましょう。欧州合衆国陸軍東方軍総司令官のゲッベルス上級大将といいます。宜しいお願いしますね」


「え、は?」


東條少将は思わずそんな声を発してしまった。


「どうかされましたか?」


「いや、え、欧州合衆国陸軍?ここは反政府勢力の牙城なのですが?」


「ああ、確かに。そうでしたね」


「いや、そうですけども……」


この男は、欧州合衆国の軍人と名乗った。意味がわからない。どうして、それも最高級の指揮官が、何の違和感も無くここにいるのか。しかも、彼を連れてきたのは反政府勢力のリーダーなのである。事情が全く読み込めない。


「つまり、私は、アデナウアー大統領を裏切りに来たのです」


「ええ。ゲッベルス上級大将閣下は、我々の呼び掛けに応じ、東方軍全てを我が党に寝返らせると、約束して下さいました」


「その通り。よって、自由アフリカの皆様とも善隣の誼を結びたく思いまして、遥々キエフを訪れた訳です」


ゲッベルス上級大将は、欧州合衆国を裏切るつもりだと言う。確かに、東方軍全てが裏切れば、それはかなりの戦力となり、また、その他の裏切りも誘発出来るだろう。


「宜しくお願いしますね」


ゲッベルス上級大将は東條少将に手を差し出した。今回は、ゲッベルス大将の方が完全に高位の将官である。東條少将は、色々な意味で萎縮しつつも、ぎこちない握手を交わした。


「しかし、どうして、共和党ビルでは、現れなかったのですか?」


近衛大佐は尋ねる。確かに、今突然現れるのも妙だ。


「簡単です。私が協力するというのは、ソビエト共和国には全く知らせていません」


「では、ソビエト共和国をも裏切るつもりですか?」


「いえ。私はあくまで、ベルリン急襲の後にファシズムに賛同したという体でクーデターを起こしますよ」


「では、大和は必要ないのでは?」


大和が必要な理由は、欧州合衆国軍のレーダー網を突破する為だった。


「いえ。必要ですよ。東方軍はあなた方を無視しますが、ベルリンの辺りは親衛隊の管轄ですから」


「ああ、なるほど、それは確かに必要ですな」


「はい」


旧ドイツ民主共和国の領土辺りから東が東方軍の管轄である。それより内側は、親衛隊が護っている。そして、その親衛隊がアデナウアー大統領を裏切るとは思えない。やはり、力業は必要なのだ。


「東方軍の戦力は、どれ程のものが用意出来るのでしょうか?」


東條少将は尋ねる。


「およそ、4個艦隊です。東方軍は、ソビエト共和国との来るべき戦争に備える為の軍隊ですので、必然的にその比率は重いのです。また、親衛隊は2個、南方軍は3個、アジア軍は2個がそれぞれ配置されています」


東方軍の戦力は、一対一では何処にも負けないようだ。とても頼りになる。


「それと、私の友人の、南方軍を預かるド・ゴール大将も、いざという時には力を貸してくれると言っているので、それも加わるでしょう」


「な、そこまで用意したあるのですか」


「はい。既に、軍の多数派は我々なのです」


「それは、また……」


全く突然の報告であるが、南方軍3個艦隊も味方するらしい。なるほど、これは、最悪の場合でも内戦で勝利出来る公算は大きい。また、それにベルリン急襲の心理的動揺が加わるのだ。どうして負けられよう。


「既にアデナウアー大統領にはチェックが掛かっています。次はあなた方がチェックメイトを掛ける時です」


「ええ、お任せ下さい」


「頼みますよ」


「もちろん」


やはり、犠牲は少なく、革命は短期的に終えたい。その為には、内戦の泥沼化を防ぐ為、民衆の動員が必要だ。そしてその為に、ベルリン急襲が成功することが期待されている。


東條少将の手腕に、今後のヨーロッパの命運がかかっているのだ。




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