ロンドンにてⅡ
サブストーリーです。
ある日、ロンドンに滞在していたアデナウアー大統領の元に、一通の手紙が届けられた。そう、メールでもなければ手紙である。
差出人はベルリンに留守番しているヒムラー大佐であり、手紙には、「これを読み終わり次第、焼却すること」とまで書かれていた。おまけに、それを持ってきたのもまた将校であった。
手紙には、「東方で不穏なる動きあり。大陸に戻られることなかれ」とだけ書いてあった。
「ついに、この日が来たか……」
アデナウアー大統領は、手紙を燃やすと、一人小さく呟いた。また、彼は一人の男を呼び出させた。
やがて静かなノックの音が響いた。
「ライエン大将です」
「入りたまえ」
入ってきたのは、貴族的に派手に装飾した黒軍服を纏った、若い男であった。
「早速だがライエン大将、これを見てくれ」
アデナウアー大統領は先程の手紙を差し出した。ライエン大将は
さっと目を通す。
「なるほど。それで、私を呼んだと」
「ああ。親衛隊全国指導者の君を、だ」
ライエン大将は、欧州合衆国政府に直隷する武装組織、親衛隊の長である。親衛隊は、国軍とは全く別の組織を有し、有事には国軍と協力して戦闘を行い、平時には国軍を監視し、クーデターなどを未然に防ぐ。
憲兵との違いは、憲兵が軍内部の統制をするのに対して、親衛隊は軍の上層部も含めた全てを統制する。
因みに、親衛隊の兵力は国軍の兵力とは別に数えられる。これは各軍縮条約の抜け穴であり、他の国々も躊躇いなくやっている。大日本帝国の近衛艦隊が代表的だろう。
「不思議ですね。親衛隊には、今のところ、不穏という報告は入っていませんが。それに、これは、軍人の手紙にしては、あまりにも要点を欠いています」
「確かに、そうだ。だが、あのヒムラーのことだ。何らかの危機を察したに違いない」
「それで、親衛隊最後の任務を言いつけに、私を呼んだと」
「そうだ。チャーチル作戦のプランEを発動だ」
「了解しました」
親衛隊最後の任務とは、クーデターが起こった際、政府を護ることである。親衛隊の戦力は全てでおよそ2個艦隊、国軍の9個艦隊には遠く及ばないが、それなりに耐えることは出来る。
内戦は既に始まっている。




