国家社会主義ヨーロッパ労働者党との会談Ⅳ
「それで、ですが、皆さん。何だか私には、皆さんが話し合いの順序を間違えている気がするのですが……」
と、今度はクビツェクが話を変えた。
「と、言うと?」
東條少将は言う。
「はい。まず、NSと自由アフリカは、どのような関係でいるべきか、また、戦後の処理についても、我々は全く触れていません。まずはそこから話し合うべきではないでしょうか?」
クビツェクの言い分はもっともだ。東條少将やヘス総統は、軍の最高司令官や国家元首であるにも関わらず、何故か、戦術レベルの論議、それも、互いに協力することを前提としたものをしていた。
戦術レベルの話を最高レベルの話し合いで決めているのは、今回の特殊な事情故に、まだ不可思議ということもないが、国家戦略レベルの話が纏まっていないのは問題だ。戦略あってこその戦術だ。言うなれば、目下の彼らの討議は、実現可能性を問わない、机の上だけの思考ゲームに過ぎないのである。
「では、状況を整理しましょうか」
東條少将は言う。
「まず、少なくともヨーロッパで内戦が起こっている限りにおいて、我々は、利害を一致させています。自由アフリカは、アフリカ内戦の遂行の為、欧州合衆国を排除したい。あなた方NSは、そもそも欧州合衆国を革命で破壊したい」
「ええ。その通りです。そして、問題は欧州合衆国が崩壊した後どうなるか、ですね?米ソの轍は踏みたくないものです」
ヘス総統は言う。確かに両勢力は、欧州合衆国が完全に消滅するまでの間、味方であり続けるだろう。しかし、欧州合衆国が滅んだ後、その利害が衝突しないとは限らない。いや、なまじ、地中海を隔てて対岸に存在する国家同士である為に、その利害が衝突することは十分に懸念される。
昨日の味方は今日の敵とは、歴史上稀によくある現象である。直近では、かつて対米戦を共に戦った日ソの対立が挙げられるだろう。少し時代を遡ると、第二次大戦後の米ソ冷戦も挙げられる。
「まず、質問させて頂きます。率直に問いますが、欧州合衆国を革命した後は、何をするのですか?」
東條少将はヘス総統に強く尋ねる。そう言えば、NSは合衆国の腐敗を正すとは主張するが、その後に何をするのかは不明瞭だ。
「では、こちらも短くいきましょう。我が党の目的は、一番に全ヨーロッパのファシズム化、二番に強力な中央集権国家の樹立、第三に武装中立、です」
「それが具体性を欠いているのです。ああ、いや、内政に関しては、干渉する気は毛頭ないのですが、対外的な姿勢については、具体的に教えて頂きたい」
「なるほど。少なくとも、我々が今後、侵略政策を採ることはあり得ません。ヨーロッパ内で完結する経済の建設もまた、我々の使命です」
「では、侵略を受けたとしたら?」
「当然ながら反撃し、敵を殲滅します」
まだまだ具体性は欠片もないのだが、とりあえず、おおよその国家方針は見えた。ヘス総統が目指す国家は、典型的な平和国家である。まず国内の安定を図り、対外的には、自ら殴りはしないが、殴られたら最後まで殴り返す。地域の安定を築く上では理想のスタンスだ。
「一応確認ですが、自由アフリカを支援しない、ということはないですよね?」
一度もまともに発言していなかったハンニバル大佐が声を上げた。自由アフリカは、一気に最有力の武装勢力に成長したとは言え、未だに「武装勢力」に過ぎない。他の勢力が糾合され、一気に自由アフリカに襲いかかってきたら、どうしようもないのだ。
「もちろん、支援は存分にします。ファシズム世界の防衛は、侵略ではありませんから」
「ふう。宜しくお願いします」
「いえ、こちらこそ、戦艦を貸してまで頂いた恩には報いなければ」
「そんな、大したことでは……」
自由アフリカもNSも互いにへりくだっている。これは、双方が双方の支援を必要としているという、なかなかに複雑な状況が作り出した産物である。歴史上では、レーニンとドイツ第二帝国との関係が良く似ている。
この時代では、ドイツ第二帝国が自由アフリカに、レーニンがヘス総統に、ロシア帝国が欧州合衆国に置き換わった。自由アフリカが後援するヘス総統は欧州合衆国を倒し、それが自由アフリカにとって巨大な利益となるのだ。
「まあ、ともかく、NSと自由アフリカは仲良くやっていけそうですな」
近衛大佐が面倒臭そうに言った。
「ええ。最期までドイツ人と第三帝国の為に戦ったヒトラー大総統や、イタリアをただ愛したドゥーチェ・ムッソリーニのように、我が党が友との信義を裏切る筈はありません」
が、ヘス総統は自信満々に応えた。




