大本営にてⅡ
サブストーリーです。
ノンがあれやこれやと文句を垂れていると、不意に天皇その人が声を発した。
「その者は朕が呼んだ者だ。敵ではない。落ち着け」
「は、はあ。陛下……」
天皇その人だけは全てを知っているようであった。だが、その他の者は、公爵らさえも動揺を隠せずにいた。
「伊達よ。これを説明せよ」
天皇は、ただ一人動揺していなかった華族、伊達に命じた。どうやら、この二人が今回の件を仕組んだらしい。そして伊達は流暢に語り出した。
「皆様。まず、このようなことで不要に皆様をお驚かせてしまったことに謝罪します。ですが、これは、我々にとって必要なことでした。原首相などは、屍人の姫とやらを僭称する輩と何やら付き合いを持っているようですが、今後、それは大逆とみなします。そして、いざという時には、ここにいる彼女が、陛下に協力し、粛清を断行します。どうぞ、覚えておいて下さい」
つまるところ、これは、天皇から臣下に対する鞭なのである。およそ歩兵の装備に対しては不死身と思われるノンならば、その粛清に対抗などできまい。そしてそれ以上に、内閣に精神的に与えられた衝撃は甚大であった。
「良く、理解致しました、陛下。我々臣下は、陛下に今後とも忠を尽くしましょう」
原首相が真っ先に言った。また、他の者もそれに続いた。
「良い。忠良なる汝ら帝国臣民は、今後とも帝国の発展と繁栄に努めよ」
「御意のままに」
そして皆が揃って最敬礼をした。と、その時、機を窺っていたノンが言った。
「皆さーん。ちょっと、私からアドバイスを一つ差し上げよう」
「ん?なんだ?」
ノンのこの行動は天皇や伊達侯爵にも想定外だった。この時ばかりは、本当に全員が平静を失った。
「君達の人類は、良く神を信じている。それはよくある現象だけど、特にここはその傾向が強い。君達の生命科学は、その他の科学と比べて、300年は遅れている。神には神はいないと、知っておくべきだね」
「は?どういう意味だ?」
「ええと、それはご自分で考えて下さい。陛下」
「そうか」
結局、ノンのこの言葉を正確に理解出来た者は誰もいなかった。そして、黙り込んだ彼らをよそに、ノンは陽気そうに大本営から出て行った。
しかし、この後に、皇居を厳重に警備していた筈の皇宮警察は誰も彼女の姿を見ていないと証言した。
やっぱりSFじゃないんですよね。どちらかというと空想科学的な。




