東郷召還
どこぞの英霊召喚RPGじゃないんで、「東郷召喚」じゃなくて「東郷召還」です。
崩壊暦214年1月2日10:32
太平洋上空に、飛行戦艦大和は浮いている。今回の飛行は大和だけである為、その全力をもって、およそ50ノットで飛行できている。
「はぁ。最悪の正月だな。これは」
東郷大将はぼやく。
「まあ、久しぶりに帝都に帰れるということで、あまり気落ちしないでください。ハワイ基地に派遣されて以来、休暇返上だったわけですしね」
近衛大佐は帰れると言うが、帝都での休みなどないだろう。
東郷大将は、先のサンフランシスコで、天皇の命に叛き、都市の破壊を躊躇ったということで、大本営に呼び出されわけである。
彼には問責と叱責が待っていることだろう。
「諸君は、帝都での休暇を楽しみたまえ。私は、御前会議に出席だ」
『了解です』
「結構」
大和の乗組員達はつかの間の休暇を楽しむのだろう。
やがて、大和は帝都中央空港にたどり着く。
相変わらず、帝都は活気に満ちている。帝都には多数の高層ビルが立ち並び、商店もまた、ビルに詰め込まれている。もっとも、これは人類の慢性的土地不足によるものだが。
また、未だに開戦を祝うムードは残っている。積年の恨みを晴らす時であると。それに戦勝祝いも追加である。軍人は、歓迎された。
その後、東郷大将以外は街中を進み、東郷大将は皇居に向かうのだった。
さて、いつも通り、御文庫付属庫にて、御前会議は開かれた。
「さて、東郷大将。先のサンフランシスコにての行為。何を指すかはわかるでしょう。弁明はありますか」
山本中将は東郷大将に尋ねる。
「私は、あくまで、必要なことのみをしたまで、であります。もし、都市を焼いていれば、復興は遅れ、市民の反感も激しくなっていたでしょう。統治において、最善の策をとったまでであります」
「東郷大将、天皇陛下は都市を焼けと命じられた。それに反するは、帝国に反することとわかっているのか!」
陸軍大臣は怒鳴りたてる。
「私は、帝国の利益を最大にするための策をとったのでありまして、帝国に背いた覚えはありません。
それに、我ら臣下の役目は陛下の輔弼。ただ陛下の仰ることに従うのが忠良なる臣民ではありますまい」
しかし、東郷大将は反駁する。
「確かにそうである。だが、今回は天皇陛下の勅命であった。それは、絶対である。大将は従わなくてはならなかった!」
陸軍大臣はなおも同じ主張を繰り返す。
だが、その時、ついに天皇その人が声を発した。
「陸軍大臣。大将の言い分は正しい。朕の意図は、叛乱を即時に収めさせることにあった。都市を焼かずとも、叛乱を鎮圧したのならば、良いであろう」
「は、へ、陛下がそう仰るのならば、私めが大将を責めることはできません。陛下のお言葉が全てです」
いくら豪胆な陸軍大臣でも、天皇には逆らえないようだ。先ほどまでの威勢は何処に。彼は静かに席に戻っていった。
「皆様、それでは。東郷大将には一切の咎めはなし、ということでよろしいですか」
大臣達は無言で頷いた。
「さて、次の議題ですが、東郷大将にお伝えすることがあります」
「というと?」
「我々は、先日の御前会議で、ロッキー山脈攻略を決定しました。つきましては、第一艦隊と第三艦隊で連合艦隊を結成し、東郷大将には引き続き、その指揮官を努めていただきます。よろしいですか?」
「もちろんだ。帝国の為、全力を尽くさせてもらおう」
「ありがとうございます。では、詳細について話し合いましょう」
話し合いといっても、殆どは東郷への報告に終始した。
計画では、ロッキー山脈の向こう側の都市であるカルガリーに至る道を切り開く。防衛線と言えど、一ヶ所に穴を開ければ芋づる式に崩れ去るだろう。
更には、カルガリーを確保し、更に東への侵攻と、米軍防衛線の破壊の橋頭堡足らしめることが決定された。
作戦名は「R号作戦」である。
また、伊藤中将の第二艦隊には、ロッキー山脈の南のフェニックスからの敵増援の抑え込みの任務が与えられた。
新たな戦いはすぐそばに迫っている。