宣戦布告
ここから本編スタートです。
「ふーん。人類もついに戦争しちゃうのか」
廃墟で少女は呟いた。
崩壊暦213年12月10日06:59
西暦の末年、そして崩壊暦の元年、人類は未曾有の危機に襲われた。人類解放戦線が開発した生物兵器が流出し、多くの人間は生ける屍と化した。
各国政府は、大都市の近郊に複数の安全圏を作り出し、その中に生存者を収容。これが現在にも続く、「都市」の原型である。
現在、都市の周囲は長大な防壁に覆われ、人々は安寧を享受している。
屍人どもは強くもなければ賢くもない。彼らから人類領域を防衛するのは容易いが、一方で、その数は70億は下らない。それを殲滅しようというのは到底無理な話である。
さて、都市は人類の生存領域の大半を占めるが、一部の離島は、屍人を掃討し、完全な人類のコントロール下にある。
ここはその一つ、大東亜連合が盟主、大日本帝国のハワイ基地である。
ハワイ島は、先の屍人掃討の際の核攻撃によって焦土と化しており、アスファルトに舗装された基地と、黒ずんだ岩肌が覗くのみである。
今日、此処には百数十の飛行艦が集結し、新たな指令を待っている。その威容は空を覆い尽くさん程である。
時刻はまもなく7時になる。傾注の合図が流れた後、全艦の放送から君が代が流れ、東方艦隊総司令官からの訓示が始まる。そのスクリーンに写るのは、如何にも総大将といった面持ちの白髪の将軍である。彼は厳かに語り始めた。
「私は、大日本帝国軍東方方面軍最高司令官、東郷五十六である。これより、帝国東方方面軍の全将兵に告ぐ。
知っての通り、先日の御前会議にて、大本営は、米連邦への宣戦を決定した。
米連邦は、我が国に対する強圧的な態度を崩さず、豪州よりの完全撤退を求めてきた。また、我が国の平和的交渉にも関わらず、米連邦は一切の反省を見せず、ついには飛行艦隊の削減までもを要求しだしたのだ。
これこそ、帝国が米連邦に宣戦した所以である。
今、此処に集った諸君は、米連邦西海岸攻撃の鋭鋒である。故に、諸君らには、緒戦での勝利が求められる。諸君らの活躍に、帝国の未来が掛かっているのだ。
さて、現在、米軍は西部諸都市に強力な対空兵器を配備している。しかし、我が艦隊がそのようなものに阻まれることはない。
神武天皇の御即位、皇国の建国より3000年、我らは敗北を知らず、常に勝利してきた。我が軍には天皇陛下と建国の神々がついておられる。先の大戦で証明された我が国の正義を信じ、命を捧げ挺身せよ!
皇国に敗北などはない!
皇国が450年前に味あわされた屈辱を、アメリカ人に味あわせる日が来た。東亜の興廃、帝国の自存はこの一戦にあり!
先立つ英霊達に、再び日本の名誉が穢される姿など見せてはならない!
天皇陛下、万歳!
皇国、万歳!
諸君に武運があらんことを!
終わり」
放送は終わった。また、最後にもう一度君が代が流れる。これこそが戦争の始まりを告げる鐘であった。
初の戦争に沸き立つ者、不安を隠せない者など、兵士らは様々な反応を見せた。しかし、その誰もが、後に訪れる戦いの壮絶なることを、まだ、知らない。
東条英機ネタ入れたんですけど、わかった人いますか?