ロンドンにて
サブストーリーです。
この日、アデナウアー大統領はグレートブリテン島にいた。グレートブリテン島とは旧グレートブリテン連合王国の領土の大半を占める島である。
その南端には、200年前、欧州合衆国屈指の要塞都市となるロンドンが建てられた。勿論、これは旧グレートブリテン連合王国の首都を継承する都市である。
また、ロンドンだけではなく、グレートブリテン島に存在する都市の殆どが堅固な要塞となっている。それは主にアメリカ連邦との戦争に備えた防備であるが、しかし、最も堅い都市はロンドンだ。まあ、その理由は押して量るべし。
さて、ロンドンは海に面する都市で、端からはドーバー海峡の景色が一望できる。そこに一隻の巨船が現れた。
それはかなりの沖合に浮いていた。しかし、遠近感を抜きにすれば、近くの商戦と全く同じ大きさに見えたのだ。
「あれが、我が海軍珠玉の傑作、「氷山戦艦ゼカリヤ」です。大統領閣下」
「おお。流石のデカさだな。トレスコウ大佐」
アデナウアー大統領の横には、一昔の海賊映画に出てきても違和感のない海の男、トレスコウ大佐が立っていた。
「ハバククも使えるな?」
「もちろんです」
「あれが2隻か……」
ゼカリヤの制式名称は、「ハバクク級戦艦2番艦ゼカリヤ」である。独特の長方形のような外観に、圧倒的に巨大な体躯を誇るこの戦艦が、更にもう一隻あるというのだ。これを見れば、戦争で負ける気などしないだろう。
「しかし、見た目には氷の塊に鉄を貼り付けたようにしか見えないのだが、結局あれはどういう戦艦なんだ?」
「どういう……あいつはですね、一見ただの氷に見えますが、氷ではありません。パルプリートという、氷にパルプを混ぜた素材でして、水に溶けず、砲弾にも耐える、理想の素材です」
「なるほどな。まあ、私が作戦に介入することはないから、知っている意味もないのだがな。好きにやってくれたまえ」
「ありがたきお言葉です。では、私は仕事に戻らせて頂きます」
「ああ。頼んだぞ」
アデナウアー大統領とトレスコウ大佐は互いに反対方向に歩いていった。かくして、短い会話は終わった。
そして、気づいた時にはゼカリヤは消えていた。




