更に次なる戦闘に向けて
「それにしても、お前の性能はどうなってるんだ?」
アビジャンへの帰路、東條少将は尋ねる。そう言えば、大和のことは殆ど何も知らないのだった。あれ程のミサイルを制御しながら人と自然な会話をするとは、その処理能力には感嘆するばかりであった。
「ええと、私の頭は、およそ52PFROPSですね。まあ、そこまで凄まじいといった値ではないのではないでしょうか?」
大和はかなり控えめに言った。
52PFROPSといえば、極初期のコンピュータとして有名なENIACの1兆7000億倍くらいの性能である。とは言え、これは大したものではない。ちょうど、21世紀初頭のスーパーコンピュータくらいのものである。
まあ、それでも、それがこの人大の機械の中に入っていることは十分に凄まじいことではある。だが、数千PFROPSを記録するこの時代のスーパーコンピュータの数々と比べれば、些か見劣りするように思えた。
「意外と、そこまでじゃないんだな。だが、とうやってそれで人格とかを計算してるんだ?」
それは当然の疑問である。知っての通り、大和と同じ性能のスーパーコンピュータでは、人格を再現することなど不可能だった。この時代のスーパーコンピュータも同様である。
だが、ここの大和は、それを易々と成し遂げていると見える。
「まあ、そうですね……確かに、人の脳、その人格、感情、感性などをコンピュータで完全に再現しようとすると、およそ120万PFROPS級のスーパーコンピュータが必要と言われています。この世界にはまだありませんね。ですか、それは必要ではないのです」
「と言うと?」
「人の人格を再現するには、人の脳をそのまま再現しなくても良いのです。例えば、人間は空を飛ぶため、最初は鳥の真似をしました。しかし、それが成功した例はありません。今の人類は、鳥とは全く違う原理で飛んでいますよね。ライト兄弟の飛行機もそうですし、この飛行戦艦大和もです」
まあ、何となく分かった。確かに、言われてみればそうである。
「だったら、どうやって人格を再現してるんだ?」
「企業秘密です」
「ええ……いや、もう企業とか残ってないだろ」
「まあ、色々あるんですよ」
結局、大和が自らについて語ることはなかった。その日は、何とも言えない煮え切らない思いだけが残った。
もっとも、そんなことより遥かに重要なことが残っている。アビジャンを防衛したとは言え、何も状況は変わっていない。
やがて、艦隊はアビジャンに着陸した。
東條少将らを出迎えたのは老齢のハミルカル代表であった。ちょうど良いタイミングだ。東條少将はすかさず彼に向かっていった。
「東條閣下。まず、アビジャンを危機から救って頂いたこと、感謝したい」
「いえ。前にも言いましたが、当然のことです」
東條少将は些か早口に言った。
「それと、早速ですが、お願いがあります」
「ほう。何ですかな?」
「自由アフリカに残された物資、弾薬を全て、空母と艦載機の修復に回して下さい」
「それは構いませんが……」
「今日より3日後、我々は、クマシを攻撃します。その為の準備の為です」
「攻撃?なるほど。わかりました。すぐに手配しましょう」
このハミルカル代表、かなり物分かりのいい御仁だ。軍事にもそれなりに通じているらしい。東條少将からしたら、有難い限りである。
「ありがとうございます」
東條少将は、そう言い残すと、足早に歩き去った。そして目指すはアビジャン第一造船所である。近衛大佐が詰めている造船所だ。
「近衛大佐。先に連絡したと思いますが、早急に、空母と艦載機を使えるようにして貰いたいのです」
作業員に檄を飛ばしていた近衛大佐に、東條少将は話しかけた。近衛大佐はやはり、戦争屋ではなく技術者なのだ。
「もちろん、わかってますよ。今ここにいる奴らは、その準備に奔走しているところです」
「おお。流石、素早い。では、引き続き頼む。期限は後3日だ」
「3日ですか。大和にでも計算させたんですか?」
「あ、ああ、そうだが」
「いや、なかなか正確な値を出してきたと思ったもので。無理もなければ手も抜けないところを」
近衛大佐も大和と同様に時間を計算していたようだ。3日というのは、造船所を全て回してようやく達成出来るが、過度な重労働を強いる必要はないくらいの期限らしい。
「なるほど。まあ、頼みます」
「心配なさらず」
さて、暫くアビジャンは忙しくなる。




