葬儀
ここから第二章です。
東条少将とかそこら辺の人が出ます。
崩壊暦214年12月5日08:00
ここはギニア湾南西およそ500km、穏やかな海原である。
大小合わせて80隻の水上艦艇と、それに曳航された50隻の飛行艦が行く。これこそは東條少将と鈴木中将の艦隊である。
その旗艦大和もまた、水上に浮かんでいる。本来ならば東京からアフリカまで終始飛行することも可能ではあるが、今ばかりは諸事情あって、巡洋艦「かつらぎ」がこれを曳航している。いくら大和でも、流石に水上を進む機能はない為である。
さて、その甲板には数千の人々が整然と並んでいる。また、数十程の来客も訪れている。幸いにして、飛行機を留める空母は健在なのだ。
皆人揃って綺麗な軍服を着ている。しかしそれは幾分か地味に見える。紀章、勲章を全て外しているからだ。
「か、閣下?自由アフリカの使節が到着しましたよ」
と、珍しく深緑の軍服を着ている神崎中佐は言う。因みに、彼女は東條少将を閣下と呼ぶのに激しい抵抗があるようだ。また軍服も着慣れていない感がある。
神崎中佐は、航空艦隊の飛行隊長として報告に来た。自由アフリカの使節の護衛もまた、航空艦隊の重要な任務である。まあ、大過なく終わったようで何よりである。
「了解。じゃあ、迎えに行くか」
「頑張って下さいね」
「ああ」
東條少将は若干気だるそうに歩き出した。ここ数週間があまりにも怒涛の毎日で、将兵は皆疲れ切っているのだ。
大和から鳳翔までヘリで行き、その一行は見えた。東條少将は彼らに歩み寄った。まずは、その代表である老齢の男だ。
「ハミルカル代表。この度は、わざわざ足を運んで頂き、感謝します」
「いやいや。これも当然のことです」
「代表のような立派な指導者になりたいものです」
「何を言いますか。私は、何千何万の無辜の命を殺した挙げ句、その犠牲すら無意味にしようとしている老人に過ぎませんよ。本来ならば、ここに居ていい者ではない」
東條少将は、せめて雰囲気だけでも明るくしようと努めたが、ついにそれは叶わなかった。
「では、大和に向かいましょう」
「はい」
一行は沈痛な面持ちで歩き出した。鳳翔と大和のタラップを直に繋ぎ歩いた。その時、前方から、漆黒の礼服に身を包んだ女がやって来た。
「ん?大和?」
ヒューマノイドの方の大和である。
「どうした?」
「予定が12分23秒押しです」
「おう、そうか」
別に予定などあってもなくても変わらない程度のものなのだが。大和は律儀に過ぎるのだ。東條少将は返事に窮してしまった。そしてその時、訝しんだのか、ハミルカル代表が声をかけた。
「誰ですかな?そちらのお方は」
「ああ、こいつはですね……」
何と応えるべきか。服装から軍人とは絶対に言えないし、かといってAIですと素直にも言い難い。今度こそ迷う質問であった。
「私はこの戦艦を司る人口知能の大和です。以後、お見知りおきを」
「人口知能?なるほど、面白い」
「え、ええ…ああ、はい。そういうことですので、宜しく、お願いします」
一行に何故か大和が加わり、また、一行は甲板に向かって歩いた。まあ、大体はエレベーターだが。
さて、甲板の一角に一行は着いた。ここだけは椅子付きの特別席である。そして、彼らの到着とともに、それは始まる。大和の後部には簡単な飛行甲板があり、ここが主となる。
やがて、百と少しの兵が、数十の棺を担いでゆっくりと歩いてきた。東京攻防戦での戦死者達である。ただし、これが全員である訳ではなく、ある程度高位の者だけがこうして大仰に扱われているのだ。
棺は甲板を一周し、そして後部飛行甲板まで回ってくり。棺が通ると、兵士らは皆、深々と敬礼をした。そしてここで流れは止まる。そして棺は甲板に丁重に下された。




