サンフランシスコ爆撃
崩壊暦213年12月15日18:00
「サンフランシスコ爆撃を、開始せよ」
東郷大将は重々しく命じる。
事前にサンフランシスコ南西地区のパルチザンに対し、「ただちに投降せよ。然らずんば都市ごと焼きつくさん」と告げたが、一向に事態は収拾せず、サンフランシスコを爆撃することになった。
今回の出番は戦艦と巡洋艦のみだ。
また、東郷大将は、殲滅ではなく、示威行為を厳命し、爆撃用の炸裂弾ではなく、通常の五十三式徹甲弾を用いよう命じた。
上空に並ぶ主砲の全てが地上に向けられる。地上からすれば、その迫力は死を覚悟させるものである。
「撃て」
東郷大将は静かに命じた。
そして、各々の主砲は徹甲弾を地上に撃ち込んでいく。砲声は遥か遠くまで木霊し、爆炎は薄闇の地上を照らした。
建物は次々と破壊され、瓦礫と化していく。眼下には、逃げ惑う人々が見える。砲撃は続き、土煙が地を覆い尽くした。
逃げ惑う中にはパルチザンもいるだろうが、大半は無関係の民間人だ。
だが、パルチザンとの区別はできない。東郷大将はただ彼らを殺すことしかできなかった。
数分後、目立った建物は殆ど破壊されていた。高い建物ほど砲撃には弱いのである。後に残ったのは瓦礫の山のみであった。
「全艦に通達。攻撃を停止せよ。作戦目標は十全に達成された」
すぐに砲火は止んだ。
後に残るは破壊しつくされた町だけだ。東郷大将はさぞ恨まれることだろう。
「直ちに生存者の救護にあたれ。抵抗するものは、極力殺さず、生け捕りにせよ」
東郷大将が命ずると、飛行艦隊は次々と地上に降り立ち、地上部隊を展開していく。
「閣下、お気持ちはお察しします。しかし、これは、必要悪でありました。閣下が気に病む必要はないのです」
東條中佐は東郷大将に語りかける。
「ああ、わかってはいる。わかってはいるんだ」
だが、東郷大将の脳裏からは、自分が殺した無辜の民の姿が消えなかった。
幸いなことに、南西地区では大きな暴動は起きなかった。
そして、それ以降、帝国軍を悩ませたテロはぱたりと止んだ。
「閣下、これで、サンフランシスコ市民からの反感を買ってしまいましたね」
「そうだな。代わりに、福利厚生は厚くしなければ」
東郷大将は、この民間人虐殺を心から後悔した。
「このような政府に従うべきだろうか…」
誰も聞こえない声で東郷大将は呟いた。
かくして、甲号作戦は成功した。帝国はアメリカ西海岸の三都市を制圧し、更なる進行への土台を築いた。
これから帝国軍は東へと侵攻し、米連邦首都、ワシントンを目指すだろう。
戦火はまだ燻り始めたばかりである。
崩壊暦213年12月10日、世界を分かつ六大勢力の一つを率いる大日本帝国は、またその一つであるアメリカ連邦に宣戦を布告した。
これは後の世に第三次太平洋戦争と呼ばれることになる。
旧文明の崩壊の後、初めての列国間の戦争であり、飛行戦艦を筆頭とする数多くの新兵器が投入された。
それが何をもたらすか、誰にもわからなかった。その勝敗の行方もまた、誰も知らない。今はただ、自国の勝利を信じ、戦い続けるばかりである。
今回でメインストーリーの一章完結です。ひとまずの区切りです。
そして、もちろん、まだまだ物語は続きますよ。