第二次サンフランシスコ攻防戦Ⅰ
崩壊暦214年12月2日11:45
サンフランシスコより南に10km程の地点には、大小およそ90隻の艦隊が浮かんでいる。山の如き艦隊は、サンフランシスコを睨み付けている。これこそ、大日本帝国陸軍東方艦隊である。
ただし、その構成は多少歪で、戦艦と巡洋艦が多く、駆逐艦が極端に少ない。これは先の東京攻防戦の影響である。もっとも、それも大した問題ではないが。
その旗艦は戦艦金剛。これも先の東京攻防戦で奪還したものだ。金剛型は帝国でも最新鋭の戦艦であって、この役目に相応しいと思われた為である。
「さて、諸君。新しい艦には馴れたか?」
金剛の艦橋にはキザな男が座る。
「はい!閣下。武蔵よりは些か使いにくいですけど、馴れましたよ」
そう答えたのは、帝国軍広しと言えども、一際とんでもなく明るい女性である。帝国軍随一の癒し系、そして、彼女の名は雨宮中佐である。
「じゃあ、そろそろいい頃かな。早速、サンフランシスコを爆撃せよ」
「はっ。伊藤中将」
この艦橋を指揮するは伊藤中将である。東郷大将がこの世から退場した為、彼がこの組織を引き継いだ。もっとも、その大将を殺したのも彼だが。
前回もサンフランシスコは爆撃された。しかしそれは、決して積極的なものではなかった。東郷大将が大本営に命じられ、嫌々ながらにしたものである。
しかし、今回は、何の躊躇いもなく、作戦の一環としてサンフランシスコを爆撃するのだ。
「撃て!」
金剛の52cm砲9門が一斉に火を噴いた。爆撃の後サンフランシスコに火が上がる。固定目標の爆撃など、この時代では容易なことだ。
「第72工場を吹き飛ばしましたよ」
「ああ。そのまま砲撃を続けよ」
目標は対空砲、ブンカー、そして工場など。進撃の邪魔となるものはおよそ全て破壊する。雨のように砲弾が降り注ぎ、人工物はあらかた地上から消え去った。
「着弾は1872発!目標は達成です!」
「攻撃止め。上陸に移るんだ」
「了解です!」
さて、焦土と化したサンフランシスコ外縁部に、艦隊は降り立っていく。また、金剛は指揮の為に上空に残る。
「さてと、爆撃班は常に用意しておきつつ、地上班は進撃せよ」
降り立ったのは歩兵14000、戦車200、装甲車500を含む大部隊である。また、ついでとばかりに自走砲もちらほらと。
すっかり掘り起こされ穴ぼこだらけになった地面を彼らは進んでいく。
「敵は見えないか」
「はい。まったく見えませんね」
今のところ、敵と接触したという報告はない。いや、それどころか、人間と接触した報告すらないのだ。
「ちょっと、おかしくないですか?」
雨宮中佐は不安げに呟く。
「確かにな。まあ、だが、いざとなったら戦艦で叩きつぶすまでさ」
一方、伊藤中将は自信満々に言った。
「そうですよね」
「ああ」
ここからでも地上の様子は良く見える。現在、地上部隊は徐々に散開し、サンフランシスコの制圧に舵を切る段階にある。彼らはいよいよ瓦礫の山の中へと入っていった。
視界も悪く、回りは遮蔽物に囲まれている。それはこちらにとっても遮蔽物足りうるが、敵がそこに隠れているかもしれない。戦車と言えども、無敵などではない。ゲリラが手持ち出来る程度の武器でも十分に撃破は可能だ。
それを防ぐ為の歩兵ではあるが、やはり不安は残る。
「閣下、やはり、もうちょっと…あっ!!」
その時、前衛の戦車が突如として爆発したのだ。艦橋は一瞬だけ呆気に取られて。しかし、それはすぐに焦燥へと変わる。
「かぁ、閣下ぁ!!」
「落ち着け。状況は?」
そう言っている間にも、何処からか飛んできた弾丸によって兵士達が倒れている。
そして、すぐに通信がかかってきた。
『か、かっ……敵はしょう………ぞう………ぐあっ!……』
そして通信は途絶えた。
「くそっ!全軍に通達、早急に第七小隊の増援に向かえ!」
「了解!」
前線に戦車が集結していく。瓦礫を蹴飛ばし、兵士を車体に乗せながらの荒業であった。到着した部隊は、敵がいると思われる区域に向かって、弾を撒き散らした。
やがて加勢は収まった。静寂が訪れる。
『閣下、第七小隊副隊長の有賀大尉であります』
素早く報告が飛んできた。
「被害と敵は?」
『被害は……斎藤隊長を含め、14人が戦死、10人が戦傷です。また、敵は、殺した者が3で、逃げた奴等も含め、およそ20人程度だったかと。武器は、使い捨ての対戦車砲と、アサルトライフルでありました。また、およそ指揮官のようなものは見受けられませんでした』
「わかった。第七小隊は、ああいや、そこは大隊長に任せる。こるは貴重な情報だ。その功績を讃えよう。では、武運を」
その後も激しいゲリラ戦が続いた。




