南方政策Ⅱ
アイゼンハワー少将は条件を提示する。
「では、まず初めに、こちらからの要求を伝えましょう。我々が望むのは、まず、アメリカ連邦との通商の維持です」
「ほう。維持とは、これまた……」
ヴァルガスは嘲るように言う。南米緒都市は、これまで、望んで通商などしたことはなかった。近頃はただただ搾取されてきてだけだ。アイゼンハワー少将はそれを虫がいい言葉で濁す。
「はい。対等かつ自由な相手として、南米緒都市、ひいては新統一国家には、引き続き、貿易を続けて頂きたい」
「なるほど。取り敢えず、次を聞きましょうか」
この件はひとまずは保留で、ヴァルガスは、次の要求を聞き出す。全ての条件を聞いてから、話を進めるべきだろう。
「次の要求は、対日禁輸です」
「ほう。それはまあ、受け入れられますね」
流石に、敵国に物資を流されたくはないのだろう。妥当ではある。ヴァルガスにも、断る理由はない。
「次は何ですか?」
「はい。最後になりますが、南米緒都市には、自ら軍備を制限して頂きたい」
「軍備制限ですか。具体的には?」
「戦艦は4隻、空母は3隻まで。駆逐艦、巡洋艦に制限はしなくて良いでしょう」
アメリカ連邦は「背後の一突き」を食らいたくないのだろう。確かに、大日本帝国との戦力が拮抗している状態で、南から新たな敵が来襲すれば、アメリカ連邦は総崩れとなりかねない。
だが一方、先方とまったく同じ懸念をヴァルガスは抱く。
「でしたら、南米にアメリカ連邦が侵略を起こす可能性について、我々も、非常に心配しているのですがね」
対日戦が終結した時、あるいは情勢有利となった時、アメリカ連邦が再び侵略に走らないとも限らない。ヴァルガスを初め、南米の人々には、「自由主義国」アメリカ連邦を信頼など出来ない。
「はい。あなたがそう思われるとは、私も想定していました。そこで、欧州合衆国と結ぶ、というのをお勧めします」
「欧州合衆国?なるほど。彼の国をパトロンとせよ、と」
アイゼンハワー少将の「お勧め」は、欧州合衆国に南米での利権を約束し、これをアメリカ連邦が侵した時、欧州合衆国に南米を守らせれば良い、というものだ。
確かに、欧州合衆国とアメリカ連邦は、一見するの友好的な関係を築いているように見えるが、実際のところは対立している。アイゼンハワー少将は本気のようである。
「はい。あくまでこれは提案に過ぎませんので、取り上げるかは
あなたが選んで下さい」
「わかりましたよ」
「これで我々からの要求は一通り言い終えましたが、そちらからは何か?」
アイゼンハワー少将は、バトンをヴァルガスに渡した。次はヴァルガスが要求する。
「私の要求は、まず、南米への一切の内政不干渉です。また、メキシコに不必要な軍を置かないで欲しいものです」
前者は至極全うな要求だ。アメリカ連邦の侵略前の状況へと復帰させよというもの。しかし、後者は、なかなか際どい要求である。
これは、侵略を決定してから南米に至るまでの時間的猶予を作ることで、アメリカ連邦の侵略に釘を刺すものだ。
「はい。理解しました。また、前述の私の要求が守られる限り、この要求を全て受け入れます」
と、アイゼンハワー少将は全てを受け入れた。まあ、軍需物資は回せという脅し付きではあるが。
「先程述べた通り、我々アメリカ連邦には、南米への侵略の意図はありません。よって、あなたの要求を断る理由もありません」
アイゼンハワー少将はきっぱりと言う。彼は、侵略をしないという意思を本気で示した。なるほど、これこそが軍人の徳というものなのかもしれない。前線で闘わずに後ろから指図をする政治家とは違って、軍人は、本心から戦争を厭うのだろう。
「アメリカ連邦はまた、今後、一切、南米への侵略行為を犯さないと約束します。そして、あなたの解答は?」
そして、ヴァルガスは決断した。ひとまずは生粋の軍人を信じてみようと。やはり独裁政権こそが理想なのだと。
「チャールズ元帥閣下。アイゼンハワー少将閣下。私は、先程の要求を全て受け入れます。アメリカ連邦と南米緒都市に友好を」
「ああ。宜しく頼むぞ」
チャールズ元帥はヴァルガスと握手を交わした。
かくして、南米緒都市独立計画は一応の合意を得た。
心変わり早くねって突っ込みはなしでお願いします。




