現状把握
久しぶりのチャールズ元帥と愉快な仲間達です。
崩壊暦214年11月24日11:12
ワシントンを制圧してよりちょうど二週間。悪徳のルーズベルト大統領は除かれ、チャールズ元帥率いる新たな政府が誕生した。
「ではまず、何個艦隊が集まったか、報告せよ」
チャールズ元帥は、戦艦アイオワに集まった一同に尋ねた。案の定、彼らは皆どんよりと暗い顔をしている。
「4個です。閣下」
ハーバー中将は言う。それは、このアメリカ連邦に存在する全戦力であった。戦争の前には10を数えた艦隊も、今やここまで零落した。4個艦隊と言えば、アラブ連合と同じではないか。
「ヨーロッパには2個が逃げたのか」
「はい。閣下」
「ああ、くそ、どうする……」
チャールズ元帥は何やらぼそぼそと独り言を発し始めた。誰もそれを止めはしなかった。
本来ならば、東郷大将は易々と大日本帝国を降伏させ、日本国と新生アメリカ連邦が互いの背中を守り合う筈だった。だが現実には、日本国は崩壊し、内戦で疲弊したアメリカ連邦は、これとまともに戦わなければならない。
また、「震洋」とやら新兵器によって、大日本帝国の戦力は全く減っていない。寧ろ増えている。ソビエト共和国が最後の希望であったが、これも、まんまとやられた。
辛うじて、ソビエト共和国とアメリカ連邦の和が、大日本帝国と釣り合う、それが現状だ。
更には、旧政府を指示する派閥は欧州合衆国へと逃げてしまった。欧州合衆国がこれを黙認しているあたり、彼の国とは仲良くやっていけないだろう。
独力で戦うしかない。
「日本国の跡地の回収は?」
チャールズ元帥は更に問う。
日本国が崩壊した今、北アメリカ大陸の西半分には、巨大な権力の空白が存在する。大日本帝国がここを再制圧する前に、ここを確保しておかなければならない。
対して、今度はニミッツ大将が応える。
「サスカトゥーンまでは完了しましたが、はっきり言って遅れています」
「それで、間に合うのか?」
「無理かと思われます。ロッキー山脈まで確保し、決戦に備えるべきかと思われます」
「そうか。わかった」
現在米軍は、奪還した都市の再軍備に励んでいる。例えサンフランシスコまで到達しても、そこに何もなければ、保持する意味はないのだ。
また、現地市民の生活も考慮しなければならず、その点でも作業は遅れている。
「閣下、現実的に考えて、ロッキー山脈防衛線の復旧を最優先とすべきでしょう」
ハーバー中将は言う。何があろうと、ロッキー山脈そのものが無くなることはない。ここは依然として戦略の要衝であり、ここで戦争を続ける方が良さそうだ。
サンフランシスコなどには申し訳ないが、ロッキー山脈以西の都市は日本に明け渡す。いずれ、大日本帝国の攻勢限界の際に反撃し、それらを奪還しようと。
「くっ、仕方ないか」
こればかりはどうしようもない。また、チャールズ元帥は次の話題へと話を進める。
「『震洋』への対策は?」
「はい。現在、白兵戦に耐え得るよう、各戦列艦を改装しています。しかし、改装か終わったものは、このアイオワも含め、13隻のみです」
改装とは、艦内にガトリング砲などの固定火器をすげるものである。ソビエト共和国や日本国とは違い、根本的に艦を改造するというもの。これならば勝てる筈だ。
「こっちも間に合うのか?」
「厳しい、でしょう」
しかし、たったの二週間で作業が終わる訳もない。また、差し迫る日本軍の脅威にも間に合いそうもない。
「では、最悪の場合、ロッキー山脈の放棄も考えられるな」
チャールズ元帥は言った。また、士官らも静かに頷いた。震洋は本当に極めてかなり信じられない程の脅威なのである。ソビエト共和国の戦況を分析する限り、並大抵の手段では勝ち得ない。
ロッキー山脈に立て籠ろうと、大して意味はないだろう。ならば、準備が整うまで時間稼ぎをするべきだ。
「各工廠には、可能な限り作業を早めよと伝えよ」
「承知しました」
幸いにも、まだ、日本軍は攻めてきてはいない。だが、それも時間の問題だろう。チャールズ元帥には、ただそれが遅れるのを期待するしかない。




